第19話 渡さないから!

「なら、チョコパフェとモンブラン。カプチーノでお願いします」


「分かった。店員さ~ん、注文お願いしま~す!」


 手を挙げて陽気に注文をする。

 奢ってもらえるなら、お言葉に甘えておこう。


 まぁ渚さんならなんでも奢ってくれる、というかお金を渡してきそうだが、程々にしておこう。

 このままだと、ヒモ人間まっしぐらになってしまう。


 それに、お金の関係ほど怖いものはないからな。人というものはお金という紙切れでその人の人格自体がコロッと変わってしまう。


「ご注文お伺いします~! って何ですかこの状況は」


「お前こそ、なんだその恰好は」


 スキップしながら注文を聞きに来た阿比留は、メモ帳を片手に顔をしかめる。

 俺も同様、阿比留の姿を見て眉をひそめる。


「なんで先輩とつきちゃ……渚さんが一緒に座ってるんですか」


「お前こそなんでそんなキメてるんだ」


 ワイシャツは第二ボタンまで開け、エプロンはいつも使っているものではなく、綺麗でオシャレなものになっていた。

 それに、飲食店でNGなはずの香水までつけている。


「これは……大事なお客様を接客するから、それなりに身だしなみも整えておきたいなーと」


 指摘された阿比留は人差し指同士をつつきながらプクリと頬を膨らませる。


「いつもその意気でやってほしいんだけど」


「わ、私はいつもやる気マックスでバイトしてますけど⁉」


「あら分かりやすい嘘!」


 渚さんの前でかっこつけたいだけかよ。こんなんだったら店長に対応して欲しかった。

 今日は裏で雑用の方がテキパキと働いていてよかったのに。


「阿比留ちゃん、だっけ?」


 俺たちの会話にサッと入る渚さん。


「はい! 阿比留胡音と申します!」


 何故か敬礼をしながら裏返った声で言う阿比留。


「前、私のこと見て叫んでたけど、もしかしてファンの子?」


「ファンというか、誰もが知ってる有名人なので驚いてしまっただけですよ」


「一応聞いておくけど、五月くんとはどうゆう関係?」


「え、先輩とですか?」


「五月くんと、妙に仲がいいからちょっと不安で」


「ただのバイトの先輩と後輩ですよ~。先輩と私の間に何かあると思うんですか~」


 アハハ小さく笑いながら言う阿比留に、


「五月くんは私のだから! 阿比留ちゃんには渡さないから!」


 俺に抱きつき、阿比留の目を凝視する渚さんであった。

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