第18話 アイドルの接待
「それじゃぁ、マスターのお言葉に甘えて五月くんお借りしますね」
「あ、ちょ……」
ルンルンの様子で俺の腕に抱きつくと、そのまま席へと強引に座らせる渚さん。
「これでゆっくり五月くんとお話ができるわぁ」
「僕は言葉遣いを普通にするだけで、ここに居座るとは一言も言ってませんよ⁉」
「えー、五月くんケチ臭い~」
「忘れてるかもですけど、僕バイト中……」
「マスター。五月くんここに居てもいいですよね?」
と、渚さんはカウンターにいる店長に聞く。
流石にやり過ぎだろうと、断ると思っていたのだが、
「いいですよ。お2人でごゆっくり」
あっけなく俺は渚さんに身元を預けられてしまった。
……勝手に話が進んでやがる。
この場で俺に人権はないのか? 今日俺の意見が一度も通ってないんだが?
渚さんの威厳が強すぎる。まぁ人気アイドルだしな。店長もこの凄い経歴の常連の機嫌を取りたいのだろう。
俺という担保を使ってだが。
「さてと、五月くんは何食べたい?」
テーブルの脇からメニューを取ると、俺の前に広げてくる。
「え、僕も何か頼むんですか?」
「当たり前じゃん~、私だけ食べて五月くんが何も食べないとかなんか悲しくなるからさ~」
「じゃぁ、ティラミスでも食べようかな……食べていいのか分からないけど」
これで怒られたら理不尽だと逆ギレしてやる。従業員を普通に働かせない店長にガツンと一言。
どうせ怒られるとは逆に何かサービスしてくるだろうけど。
「え、ティラミスでいいの? 私の奢りなんだからもっと高いのでいいよ?」
「奢りなんですか?」
「もちろん!」
アイドルの接待をして、コーヒーとデザートを貰ってもらうこの時間も、俺は働いていて時給が発生している。
ちゃんと働きたいような、渚さんと話をしていた方がいいような……なんか複雑な気持ちだ。
ストーカーなどをされていなかったら、俺も素直に喜べたんだがな……実際そううまくはいかない。
「それに、五月くん貯金に2日前また入金しておいたからこんなところで使ってもノーダメージだよ!」
ウインクをしながらサムズアップをしてくる渚さんに、
「……そうですか」
俺は呆れて空笑いをする。
あの通帳にまたいくら入れたんだ……金額は聞きたくもない。それに入金しなくても、最初から入っていた2000万から引いてもノーダメージだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます