第16話 犯したい♡
別に付き合ってるわけでもないし、何も問題はないとは思うのだが。
そうか……自分がストーカーしていたことと、俺に対して行き過ぎた行動をしていたことがバレると気まずいのか。
「心配しないでください。ただ帰り道が一緒になって仲良くなったと伝えているので、ストーカーとかその他諸々のことは言ってませんよ」
しっかりと店長と阿比留は知っているが、渚さんにはそう言っておこう。
こうでもしないと、一生店の前でうろついて警察を呼ばれてしまう。それか、口止め料として現金の束を2人に贈呈するか。
どちらにしろ、渚さんを安心させるために詳しくは話していないことにしよう。
「五月くん……私優先でものごと考えてくれてる……それも私が居ないところでも……犯したい♡」
「だから安心してお店に入って――って今なんて⁉」
「ううんなんでもない。それじゃ失礼するわね」
驚いて身を引く俺の横を通り過ぎ、渚さんは店内へと足を運んだ。
聞き間違いじゃないよな? 今絶対『犯したい』って言ってたよな⁉
ヤバい、体の震えが止まらない……できれば聞き間違えたかったが鮮明に聞こえてしまった……
脳裏にその言葉がリピートされながらも、俺も渚さんに続いて店内へと戻る。
「いらっしゃいませ」
最初に渚さんを出迎えたのは店長であった。阿比留はまだ裏でキビキビと仕事をこなしているっぽい。
「お……お邪魔します」
「ごゆっくりしていってくださいね」
「はい……」
友達の家に行ったら友達の親と出くわしたみたいなやり取りだなこれ。絶対にお店でするやり取りではない。
「今日は変装、してないんですね」
にこやかに微笑む店長。
「今、私以外にお客さんいないですし、もう皆さんにはバレているのでいいかなって」
「心を開いて頂いてなによりで」
そうえば、いつの間にか渚さんの変装は解かれていた。
フードもマスクも伊達メガネもしていない、素の渚心月の姿であった。
横でじっと見ると、可愛さがダイレクトに伝わってくる。
俺、本当にこの人に好かれているのか? と自問自答したくなるくらいに、ノーマルの渚さんは輝きを放っている。
「そうえば、五月くんがいつもお世話になってます」
唐突に、ペコリと店長に向かい頭を下げる渚さん。
「いえいえ、こちらこそ三岳くんにはよく働いてもらってますよ」
「そうですか……これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、末永くお願いします」
なんだこの会話。まるで親がお店に来た時の定番の挨拶だ。
渚さんは俺の母親かなにかなのか?
ていうか店長との最初の会話がこれとか……もう渚さんは確実に頭がおかしい認定されたな。
ポーカーフェイスの店長でさえ、体を小刻みに揺らして笑いをこらえている。
俺も不意に噴き出してしまいそうだ。
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