第14話 噂をすれば
「はぁ……今日つきちゃんお店に来ないかなぁ~」
カウンターに頬杖を付きながら呟く阿比留。
「そんなに来てほしいのかよ」
「当たり前じゃないですか! 前も言いましたけどつきちゃんが来てくれるから私はここでのバイトを頑張れるんです!」
目にやる気の炎を灯しながら俺に熱弁をしてくる。
だとしても、そのやる気を表に出しすぎている。渚さんが来ない日の阿比留はいつもため息を吐いて仕事をしている。
新規のお客が居る時は流石に仕事モードになっているものの、常連だけしかいないときは完全にやる気ないオーラを醸し出している。
今日だって、俺が来た時にはバイト中にも関わらずスマホをいじりながらテーブルで優雅にコーヒーを飲んでいた。
店長も俺たちの行動を面白がって傍観しているが、注意しろよな……自分の店で働いている従業員がこんなんでいいのか?
「阿比留くん、三岳くん。噂をすればお待ちかねの人が来たよ」
カウンターで話している俺たちに、店長は声をかけてくる。
「店長~、からかうのはやめてもらえますか~。私のモチベーションを上げようとしても無駄ですよ?」
「からかってないよ。ほら、お店の窓」
と、店長は窓の方を指差す。
そこには、お店の前でうろつきながらこちらの様子を伺う渚さんの姿があった。
流石ベテラン。店内だけではなく店外の様子まで把握している。
従業員のサボりを和やかに見ているヤバい人ではあるが、仕事に関してはやはりプロだ。
「ホントだぁ~! やる気が漲ってくるぅぅぅ! 店長、私ゴミ出しと店内の清掃します!」
仕事熱に火が付いた阿比留は、小走りで裏の方へ消えていった。
「阿比留くんは何かいいことがあると、仕事早くなるから助かる」
ゴミ袋を縛る阿比留を見て、店長は微笑みながら言う。
「そのかわり、いつもだらけてますけどね」
「いいじゃないか。それだけストレスがなく仕事ができているんだから」
「必要最低限しかしてないですけどね。多少俺と店長にその影響が出てますよそのおかげで」
「仕事なんて必要最低限でいいんだよ。何か自分のできることを探してむやみにするより、自分のできることきちんとやることが大切なんだから」
「すげーホワイトだなこのバイト先」
ついツッコんでしまった。
ホワイトすぎて逆にお給料をもらって罪悪感が湧いてくる。阿比留の賃金は下げて貰っても構わないが、その分俺とその他2人のバイトの給料を上げてもらいたい。
こんな自由なのにも関わらず、このお店は回転効率がいいのがすごい。店長の腕裁きがいいのと、常連さんが多いからだろうが、にしてもすごい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます