第13話 人生勝ち組

「……マジですか」


 2日後、バイトに行った俺は阿比留に渚さんとの間にあった話をすると、唖然しながら俺を見つめていた。


「こんなの逆に作り話の方が怖いだろ」


「いやそうなんですけど、私が想像してたことがまんま起きたので、自分が怖いです」


「エスパーかも知れないぞお前」


「エスパー……それはそれでカッコいいからありですね」


 確かに、阿比留の予知に関しては当たっていて今更ながら怖い気もするが、それ以上に助かった。


 あそこで予想でも阿比留に言われていなかったら、頭の隅にも帰り道に何かが起きるなん考えてなかったからな。

 身構えられただけでも助かる。


「そこで相談なんだけど、俺はどうしたらいいと思う?」


 秘めているパワーでも出すかの如く、自分の手を見つめる阿比留に俺は聞く。


「どうしたらいいも何も、友達になれたことはいいことじゃないですか」


「いいことなのか?」


「先輩、自分がどうゆう状況にいるか分かってます?」


「人気美少女アイドルにストーカーされて、身の危険を感じながらも友達になった」


「違う! 全っ然違いますよ先輩!」


 持っていたトレーをバンとテーブルに置くと、目を見開きながら俺に詰め寄ってくる。


「何が違うんだよ。一語一句違っているところなんてないぞ?」


「あります! 大ありですよ!」


「どこが」


「何先輩はつきちゃんにストーカーされたこととか、友達になったことを嫌そうにしてるんですか!」


「ストーカーに関しては誰だって嫌だろ」


「それに先輩のために貯金まで作ってくれてるなんて、先輩はつきちゃんを崇めた方がいいですよ⁉」


「俺頼んでないし……」


 渚さんのような人気美少女アイドルと友達になれたことは嬉しい。しかし、ストーカーをされたり無断で通帳を作られたりしたら流石に怖いだろ。


 阿比留みたいな有名人大好きなミーハーだったらそれもうれしいかもしれないが、一般人が同じ展開に遭遇したなら、全く俺と同じ反応をするだろう。


 あと喜びそうなのは、ヒモ男になりたい人か、性欲に支配された人だけだ。


「先輩はもしかしてB専なんですか?」


 冷たい目を俺に向けてくる。


「なんでそうなる」


「可愛い子に迫られた男子は普通なら飛んで喜ぶのに、先輩は違うから」


「俺だって可愛い子は好きだ。渚さんは出会った中で群を抜いて可愛いし」


「ならいいじゃないですか! アイドルと友達になれた時点で先輩は人生勝ち組ですよ!」


 果たしてそのアイドルと友達になれたきっかけが、相手のストーカーとメンヘラ気質だったことなのに、人生勝ち組と言えるのだろうか。

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