第12話 ご奉仕してもいいんだけど
「渚さんを心配させたくなかたんですよ」
この危機を回避すべく、俺は淡々と嘘を吐く。
「私を?」
「はい。渚さん、僕が疲れてると心配しそうだったので嘘をついてしまいました」
「私に心配をかけないように、わざわざ気遣ってくれてたの?」
「すみません……」
申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、
「……好き」
俺の頭を乙女の顔をしながら撫でてくる渚さん。
ちょろくて助かった。
こうもすぐ他人の言うことを信じると、いつか悪い人に騙されそうで本当に心配になってくる。
まぁこの状況では助かったからいいのだが。
「五月くんの体調が心配。今日は解散しましょ」
ハッとした渚さんは、パチンと手を叩きながら言う。
「帰ってゆっくりしますよ僕は」
「私が家までついていって色々ご奉仕してもいいんだけど――」
「……大丈夫です。一人の方が落ち着くので」
ご奉仕という言葉に少し反応してしまったが、すぐに冷静になり断る。
料理を作ってもらったり、お風呂に一緒に入り背中を流してもらったり、それこそ夜の奉仕もしてもらえるかもしれないが、あいにく一人暮らしではないし、様々なリスクを考えると到底家には上げられない。
「そっかぁ~。じゃぁこれだけでも受け取って?」
残念そうな顔を浮かべると同時に、厚みのある茶封筒を俺に渡してくる。
中に何が入っているか分からないが、丁寧にのり付けまでされている。
「これは?」
と、封筒を開けようとする俺に、
「今開けちゃダメだよ? 家に帰ってからのお楽しみ」
「なんか嫌な予感がするんですけど……」
「変なものは入ってないから安心して? 五月くんが喜ぶものだから!」
「心配でしかない……」
この中身の正体は確実に万札だろう。封筒から形が浮き出ている。
しかし、これで受け取らないと渚さんは俺が受け取るまで帰らせてくれないだろう。
ここは潔く中身を知らない態で持って帰り、後日返そう。
「では僕はこれで」
茶封筒をバッグの中にしまうと、俺は家の方向に歩きだす。
「うん。また五月くんがバイトしてるときにカフェ行くからね」
渚さんは手を振りながら、俺の後ろ姿にそう声をかける。
やっと帰れる……
数十メートル歩いたが、後もつけられていないようだし、本当に家に安心して帰れる。
にしても……これからバイトどうしよう。
どう店長や阿比留にこのことを説明したものか……
こうして俺は、バイト先……というか人生に刺客が現れたのだった。
ちなみに、家に帰って開けた茶封筒の中身には、現金10万円と、4枚のすべてに俺の好きなところがびっしりと書いてある手紙が入っていた。
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