第10話 五月くん貯金

 言ったはいいものの……


 それを聞いた渚さんの顔色はみるみる赤く火照り、口角を上げていく。


「友達ですか⁉ ただ私に構ってくれる優しい人なじゃなくてこの私を五月くんの友達にしてくれるんですか⁉」


 と、早口で俺の方に迫ってくる渚さん。

 構ってくれるって……構わず負えないだからだろ。


 今もそうだし、お店でなんかお客として来ているんだから接客をするのはごく普通のことだ。


 俺の言葉もあまりよくなかったかもな。これじゃ親しくない人から告白された人が言うセリフだ。

 でもまぁ、これが一番最適解。


 まずはお互いを知ること、ないしは友達になることだ。

 別に、俺は渚さんを拒絶したりはしない。


 行動や言動にこれからも白い目をすることはあるかもしれないが、アイドルと友達になれるというメリットが大きすぎる。

 誰にも公表はできないかもしれないが、優越感に浸れる。


 アイドルという地位を覗いても、誰もが認める美少女と友達になれる。

 俺にとっては大半いいことしかない。

 悪いことと言えば、少しばかり身の危険を感じること。


 しかし、その両方を天秤にかけたら圧倒的に友達になる方に傾く。


「とりあえずは、俺も渚さんを友人として見ますから、その友人に収まる範囲内の行動をしてくださいね」


「バイト終わり一緒に帰るとか?」


「……途中までなら」


「やったぁ!」


 小さくガッツポーズをして飛び跳ねる。


「最近よくお店に来ますけど、お仕事とかは大丈夫なんですか?」


「大丈夫、最近セーブしてるから安心してね。そんなことも心配してくれるんだ五月くん……好きっ」


 そういう心配をしているのではない。

 サボってまでお店に来ていないかを心配しているんだ。渚さんならやりかねない。


 今を輝くスーパーアイドルが週に3回もお店に来ることが果たして可能なのだろうか。

 スケジュールが詰まっているとは思うのだが……まぁ俺が考えることではないか。


「でもよかったぁ五月くんがいい人で。拒絶されてたら貯金どうしようかと思ってたんだよ私」



「ん? 貯金」


「将来のためを思って新しく口座を作って五月くん貯金をしてたんだよ?」


「俺の貯金ってどうゆうことですか?」


「もちろん五月くんに使うための貯金だよ~。それとも、五月くん、自分で持ってたい? 私が五月くんに使うより自分で使いたいでしょ?」


 バッグの中を探ると、一冊の通帳を取り出す。

 口座名は、渚さん名義なのだが、挟まっているメモ書きに、『五月くんのモノ♡』と書いてあった。


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