第9話 わがまま拗らせメンヘラアイドル



「……だとしてもストーカーはやめてくださいね。迷惑というより本当に渚さんが心配なので」


 ただでさえバイトで疲れているのに、帰り道にまで気が休まらないのは精神的に来る。


 俺が渚さんのファンであったら喜んでストーカーされるのだが、俺はあいにくそうではない。


 美少女アイドルに気を寄せられているということ自体は嬉しい。

 こんな展開を嬉しいと思わない人は多分この世に存在しないだろう。


 しかし、しかしだ!

 ただ俺は好意を寄せられているだけではない。

 ストーカーをされて目の前で恐怖を覚えるくらいのアピールをされた。


 素直に喜べないのが複雑な気持ち。それに相手が人気すぎて周囲の目も気にしてしまう。

 相手が選べるなら、もう少し知名度がない人ならよかったのに……


 内心落ち込む俺に、


「五月くんの護衛を辞めたら私はどうやって五月くんと交流すればいいの⁉ 今やっとこうして面と向かって話せたのに! 関係が一歩前進したのに!」


 渚さんは心情を露わにする。


「あ、ストーカーじゃなくてあくまで俺を護衛してた認識なのね」


 ストーカーをする人は、単純に後をつけると犯罪になることは理解しているために、それを肯定するために何かしら理由を付ける人がよくいるらしい。

 その説は正しかったようだ。


「それに交流って、お店に通ってくれるなら僕は働いてますし。お店自体も毎回渚さんが来るときは混雑してない時間帯だからちょっとくらい話せるとは思いますけど」「それだといっぱい話せないじゃん!」


「接客という態にして店長に相談すれば席に5分くらいは居させてもらえると思いますよ?」


「5分? 5分じゃ足りない! 最低でも1時間は必要!」


「わがままだな~」


 目を細めながら俺は言う。

 渚さんがアイドルなこと自体に不信感が出てくるぞおい。これじゃただのわがままな拗らせメンヘラでしかない。


「私はもっと五月くんと密接になりたいの!」


「というわれても」


「カフェだけじゃなくて、プライベートで! その……あんなことやこんなことも……私は五月くんならシても……」


「いやしないから!」


 ぐへへと顔を歪ませる渚さん。

 するわけないだろ! バレたら俺まで炎上仲間だよ! 


 まぁ? 美少女とエッできるとか理想すぎて今すぐにでもOKしたいのは事実。

 だが、俺の理性がそれを圧倒的に拒んでいる。


 お店だけでとここで俺が一点張りをしても、渚さんは絶対に身を引くことはない。

 これまでの言動と行動で理解できる。

 むしろストーカーがエスカレートするかもしれない。


 挙句の果てに監禁といういかにも漫画やアニメでありそうな展開になるかもしれない。


 だからこそ、俺が提案できるのは……


「お友達から始めてみますか?」


 これが一番の最適解だろう。

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