第7話 ビビっと来た



「……ん?」


まるで別人にもなったような渚さんに、俺は不審な目を向ける。


まさかこれ、やばいタイプの人なのか?


変わった職業をしている人は、変わった性格をしていると聞いたことがあるが、本当のようだ。


今、俺の目の前でアイドルがアイドルらしからぬ表情をしている。

表舞台に出ている渚さんを見たことがあるからこそ、あり得ない。完全にオスを狙うメスの目をしている。


「私、五月くんのことが私のファンなんかよりずっと好きになちゃったの♡」


俺の手を掴み、自分の胸へと押し当てながら言う渚さん。


「ちょ、渚さん⁉ 流石にそれはマズいんじゃ……」


こんな状況を誰かに見られてた……炎上どころの騒ぎではない。


「大丈夫、ここなら誰も見てないから。それは五月くんが一番知ってるでしょ?」


「全部知ってるってわけですか……」


俺のことを上目遣いで見ながら言う渚さん。

どうやら、つけてきていたのは今日だけではないらしい。


この時間、この道に誰もいないことを把握している。

……いつからつけて来ていたんだよ本当に。


「あの、いつから僕をつけてきてたんですか? 言動からに今日だけじゃないと思うんですけど」


「いつから……と言われても、五月くんがバイトに入って来て3か月くらい経った時からだったかしら? お店の前で五月くんを見つけてそれから……」


帰宅中、店内で仕事をしている俺をガラス越しに見つけたことが始まりだそうだ。


「私、そこで一目惚れしちゃって、お店に通うようになったんです」


「一目惚れですか……」


こんな現実離れしたことがあり得るのだろうか……いや今目の前で起きてるんですけど!


おいおい、俺はいつラノベ主人公に違いになった⁉


事故で転生もしていないし、特殊能力も追加されてない。

ただバイトをしていただけなのに、アイドルにお近づきされる俺……自分でも恐怖を感じる。


「そう。五月くんを見たときにビビッときて、もう五月くん以外考えられなくなったの」


上の空で不敵な笑みを浮かべる渚さん。

頭上で何を妄想しているか考えたくもないが、相当ヤバいことを妄想していそうだ。

あんなことやこんなことを……なんか考えただけで鳥肌が立ってくる。


「ホント、間近で見ると可愛い顔してる~……好き」


「ち、近いですよ」


「え、ダメ?」


「ダメとは言っていないですけど……」


グーンと俺に顔を近づけ、まるで子犬でも見るような眼差しで見てくる渚さん。

可愛い顔してるのはどっちだよ。


国宝級の顔面をしている渚さんが、他の人を見て可愛いなど言わないでほしい。

言われた人が可哀そうなまである。第一俺は男なわけだし。


にしても、ストーカーに襲われているとシチュエーション。怖いという感情で支配されそうな場面だが……相手が相手だからか、恐怖心など一切ない。

逆にこちらが心を掴まれそうなまである。


なんという特殊能力の持ち主。アイドル補正もあるだろうが、もし渚さんがアイドルという肩書きがなくても、全く同じことを思うだろう。


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