第6話 単刀直入に


「あの……なんで私って分かったんですか?」


電柱の裏からゆっくりと姿を現すと、俺の方に近づく渚さん。


「一目見るだけで分かりますよ。自分が何者か理解してますか?」


「そ、そうじゃなくて! 私、隠れてたはずなのに、なんでわかったんですか……」


「顔をその光に思いっきり照らされて、しかも足まで見えてたのを、隠れてるとは言えませんよ」


と、渚さんの背後にある電飾看板を指差す。

もしかして、渚さんおっちょこちょいなのか?


 ステージに立つ「つきちゃん」としては完璧な存在だが、オフの時の「渚心月」では抜けているところがあるのか。

それか、俺の姿を必死に追っていたために、爪が甘くなったとか。


「それで……なんで僕について来てたんですか?」


「……っ!」


そう指摘された渚さんは、ビクっと体を震えさせる。


「それは言わなきゃダメです……か?」


「そうですね。言わなかったらお店を出禁にするしかないですね……」


実際はそんな事するつもりはないが、渚さんに探りを入れるために、小芝居を挟みながら言う俺。


「いやです! それだけはやめてください!」


「とは言われても、お店の従業員にストーカーする人は要注意人物なので出禁にするのは普通ですよ。少なくとも店長ならそうします」


「……で、でも!」


「出禁は冗談として、怒らないから教えてください」


俺は息を吐くと、渚さんの目を見ながら言う。

怒る必要なんでてない。というか、この際ゆっくりと話をしたいからどこかカフェでも入りたいくらいだ。


俺みたいな一般男子高校生につきまとう人気美少女アイドル。

狙われてる本人が言うのがなんだが、面白い話が聞けそうだ。


それに、このまま行動されていたら誰かにバレるかもしれない。

世間にこんなことが広まったら大炎上極まりない。張本人である俺が抑止力にならなければ。


「あの……私そんな上手に話をまとめられないので……単刀直入に言ってもいいですか?」


「単刀直入にですか……」


捉え方によってはなにか爆弾発言が飛び出そうで怖いが……こんな路地裏で長々と話をされるよりは幾分マシだ。


「はい……ダメですか?」


「その内容によっては、色々追加で質問するかもしれないですけど……いいですよ。一言でドンときてください」


何を言われても俺は平然を保とう。取り乱したもん負けだ。

覚悟を決めた俺。それと同時に渚さんも目を閉じて胸に静かに手を当てる。

そして、そっと目を開けると、


「ファンより君のことが好きになっちゃった♡」


瞳をキラキラとハートにして、唇を獲物を狙うように舌で舐めながら言うのだった。


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