第3話 すごい見られてるんですけど⁉
「ていうかお前はその前に、来年に向けて受験勉強だろうが。いい大学狙ってるんだろ? 勉強は大事だ
「そうゆう先輩こそ、今年受験なくせに勉強じゃなくてバイトしてて大丈夫なんですか?」
「社会経験も勉強の一つだ」
「うわ~ひねくれてる~」
阿比留と違い、俺は勉強ができる方だ。
そんなに心配しなくても、バイトをしても志望校くらい余裕で受かる。
それに、バイトをして色々な人と接して社会勉強をした方が、これから役に立つ。
「あ、つきちゃん帰りますよ」
そんなやり取りをしていると、阿比留は渚さんが座るテーブルを横目に見ながら言う。
「ホントだ。最近観察力が養われてきて何よりだよ」
個人店というのもあり、バイトもそこまでいない。従業員は店長も含めて5人。
今日のシフトは、マスターと俺と阿比留だけ。
お客さんの行動をいち早く察知して、動くことがお店をスムーズに回すのに非常に重要である。
渚さんは荷物をまとめているので、もうすぐ帰ろうとしている示唆だ。
これに気づくのには、結構神経を使う。
「私も仕事が板についてきましたよ。もうなんでもお任せください!」
「なら会計もよろしくな」
ドンと胸を張る阿比留に、俺は手振ると、厨房の方に逃げるように去っていく。
「ちょっと! そこは先輩がお会計する流れじゃないんですか⁉」
後ろから俺の手を掴み、子犬のような目を向けてくる。
「え、なんでこの流れで俺がやるの?」
「そこは屁理屈言わないで先輩らしく「俺がやっとくよ、キラッ」って爽やかな顔をしてお会計に行くのがシナリオだと私は思うんですけど?」
「そんな夢物語あるか、早くやってこい」
「つきちゃんのお会計なんて、わ、私無理ですよ!」
顔を赤面させながら、首を横にブンブンと振る阿比留。
「いや仕事なんだからやれよ」
「無理無理無理です! 一緒の空間にいるだけで心臓はちきれそうなのに、つきちゃんが触ったお金を私が触るなんて絶対に死にますよ私!」
「んなら死ぬ気でやれ」
お会計なんてものの数十秒で終わることだろうが。
それをできないって言われても逆に困る。
いつもは、雑用をしたくないから積極的にお会計に行くくせに、相手が渚さんというだけでしないとか呆れる。
有名人相手だから緊張するというのは分かる、しかし仕事はしてもらわないと困る。
「てことでよろし――」
「私お皿洗いしてくるので先輩よろしくお願いします~!」
俺が言い切る前に、逃げるように厨房へと姿を消す阿比留。
「おいお前っ! って――はぁ……なんで俺が……」
結局この流れかよ。
渚さんに狙われてる可能性がある俺によく任せるよな。あいつ、俺の心配してたくせに自分が危機になった途端逃げる。
いい性格してやがる。
――このやり取りをしている時も、
「……」
一点の場所から俺に視線を感じる。
……渚さん確実に見られてるんですけど⁉ さっきから横目でその視線を確認してるけど、すごいキラキラとした目で見られてるんですけど⁉
お会計を頼もうとしている視線ではない。
絶対に他の理由がある目をしている。
これ……俺無事にレジできるのか……?
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