第13話 燕の仕事
『この度は当ホテルをご利用いただき、ありがとうございます。ジェネラルマネージャーのクラーク・チャンドラーと申します。こちら、担当のコンシェルジュのブラウンとルークスです。二人で二十四時間対応させていただきますので、何なりとお申し付けください』
『クラーク、よろしく頼む。彼女はカズネだ。滞在中は、彼女のことを一番に気遣ってくれ。それから、彼はモモタ、彼女はサカグチ、医者と看護師だ。彼らの指示も最優先で対応してくれ』
『畏まりました』
燕と、多分ホテルのスタッフだろう、ビシリと制服を来たとてもパリッとした人たちが、着いてそうそうやって来た。
彼とは英語で話しているので、名前などの単語しか聞き取れなかったが、和音の名前や桃田、坂口の名前も出たから、きっと自己紹介してるんだろうことはわかった。
部屋には色とりどりの花が飾られていて、バーカウンターもあって、そこにはバイキングブュッフェでもするのか、カナッペやらサンドイッチ、マカロンやプラリネチョコレートなどが置かれている。
それに、ホテルの部屋なのになぜか階段が付いている。これはメゾネットタイプとかいうやつか?
それより話している間、ずっと燕が和音の腰に手を添えて、密着しているのが気になった。
「和音、彼はチャンドラー、このホテルの総支配人だ。彼はブラウン、彼女はルークス、私達専用のコンシェルジュだ。何かほしい物や用があれば彼らに言うといい」
「総支配人? 専用? その、コンシェルジュって何する人なの?」
総支配人ってホテルで一番偉い人なのでは?しかもコンシェルジュって、専用で付くものなのかと、和音は初めてのことなのでわからなかった。
「一般的なのは観劇などのチケットを手配したりレストランの予約をしたり、車の手配やらこのホテルの滞在中にしたいことを相談すれば大抵のことはやってくれる」
「そ、そう…」
「何がしたい?」
「急にそう言われても、何も思いつかないけど…取り敢えずは『自由の女神』見学とか?」
ニューヨークに来る予定もなかったのだ、事前に下調べもしていなかて、何がしたいかなど聞かれてもわからない。
「わかった」
思いつきで言ったことだったが、燕は頷くと彼らに何か言った。
「用意ができたら教えてくれる」
「用意?」
「ニューヨーク観光だ」
『取り敢えず、後で宝石商が来ることになっている。着いたら教えてほしい』
『畏まりました』
また燕が何かを指示をして、彼らは一旦引き上げた。
「君たちも何かあれば呼ぶから、隣の部屋で待機していてくれ」
実はこの部屋の両脇にある部屋二つも、燕が貸し切っていると和音は後で聞いた。護衛の人たちと安藤たち用だ。
「はい、では和音様、失礼いたします」
「ありがとう、桃田さん、坂口さん」
二人がお辞儀をして出ていくと、燕と二人きりになり、広い部屋だから息が詰まるということはないが、和音は途端にソワソワしだした。
例えば同じ男性でも桃田と二人きりなら意識しないですむが、燕は和音がこれまで接してきた誰よりも、母よりもパーソナルスペースが近い。
もともとスキンシップに不慣れな和音は、彼との距離をどう詰めたらいいかわからない。
「英語…上手ね」
「方言とか地域特有のものまでは無理だが、地球で話されている公用語は大抵話せる」
「え、それって…何リンガルになるの?」
英語、フランス語、中国語、韓国語、スペイン語にポルトガル語、ロシア語、ドイツ語、アラビア語、ヒンディー語、タイ語に日本語は話して書けるし読めると燕は言った。まるで翻訳機だと和音は思った。
「燕は、普段は何をしているの?」
「それはプライベート? それとも仕事? これから私のプライベートは、和音のためだけに使う。いつも一緒だ」
広い部屋なのにピタリと密着している。
切れ長の目がすっと細められて、じっと和音を見下ろす。
「もちろん仕事です」
じっと目を合わせるのが恥ずかしくて、和音は顔を反らした。
「私の仕事は一族を統べること。トゥールラーク人はあらゆる国にいる。彼らがつつがなくここで暮らせるよう、そして子孫を残せるよう、地域の人たちとうまく融合できるよう采配することだ」
それが燕の仕事の一部らしい。
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