第12話 初めての海外

 ただのゆりかごだから、有頂天になっちゃだめ。

 どんなに好き同士で結婚しても、両親のようになるのだ。

 でも、ただ好きだと言って結婚するよりも、ちゃんと互いの利害が一致した関係の方が案外うまくいくのかも知れない。


「ほんとに・・着いた」


 成田を離陸してから約十三時間。和音は人生初めての海外、アメリカ合衆国の大都市ニューヨークの玄関口、ニューアーク・リバティ国際空港に降り立った。

 ニューヨークの空港と言えばJFK国際空港もあるが、こっちの方がマンハッタンに近いらしい。ジェット機の中で燕が教えてくれた。

 でも空港使用料は、世界で二番目に高いらしい。

 着いてまず成田と同じように、格納庫にジェット機が入った。


「あの、そう言えば入国審査とかって?」


 海外旅行はしたことがないが、パスポートを見せたりする必要があるのでは? 成田でも出国審査をした記憶がない。


「それは大丈夫。本当は私の力で行き来できないことはないんだけど、色々外交問題とかあるから控えた。でも移動に十三時間も無駄に使ってしまったな」


 そう言えば、彼の力のひとつは瞬間移動だった。    どの程度の距離を移動できるか聞いていなかったが、日本とニューヨークの距離も移動できるのだろうか。


「でもお陰で空の旅を満喫できました。一瞬で移動してしまったらつまらないです」


 成田からここまでのフライトは快適としか言いようがなかった。離陸して機体が安定すると、安藤が100%絞りたてのオレンジジュースとともに軽食を出してくれた。それから看護師の坂口がバイタルをチェックして、和音の体に異常が無いことを確認した。

 軽食を食べ終えると、燕に付き添われてベッドへ行き、まだ日本では放映されていない映画を一緒に見た。

 途中でうとうとしていたら、いつのまにか燕に抱きしめられて眠っていた。

 最初に自分で戒めたのに、こんな風に大事にされると揺らいでしまう。

 それでも今だけだと、自分に言いきかせる。

 燕は自分との結婚を示唆していたけど、それは単に子どもの母親だから言っているだけだろう。

 目が覚めると、今度は食事が用意されていた。

 前菜から始まるフルコースのイタリアンだった。  デザートはアイスを添えたティラミスを堪能した。

 それから坂口に、マッサージをしてもらうことになった。

 体を気遣って、顔とデコルテ、手や下半身などをアロマオイルでじっくりマッサージしてもらい、あまりに気持ちよくて眠ってしまいそうになった。

 燕はマッサージをする坂口さんに、やり方などを色々と質問していた。


「今度は私がしてあげよう」


 どうしてそんな質問をするのかと思っていたら、まさかと思ったらそんな答えが返ってきた。

 彼の子どもを妊娠しているが、実際セックスをしたわけではない。頭を撫でられたり手にキスされたり抱っこされたりしているが、いわゆる裸の付き合いはしていない相手に、マッサージされることを想像して、それだけで顔が赤くなった。


「楽しかったのなら良かった」


 降りるときも同じように燕に抱き上げられた。これはもう和音がどうこう言って抵抗しても、聞き入れてもらえないのはわかっていた。

 和音にできるのは顔を背けて、できるだけ他の人と目を合わせないことだった。


「まずはホテルに行こう。時差ぼけが辛いだろうが、なるべく現地時間のとおりに活動したい方がいい」

「時差?」


 日本を出発したのがお昼前。日付変更線を超えてきたため、今は同じ日の朝だ。時差は理解していたが、タイムスリップした気分だった。


「日本を離陸したのが午前十時。そこから十三時間で今日本は夜中の一時だ。でも今は午前九時前だ。眠いだろうが少し頑張ってほしい」

「はい」

「辛くなったらいつでもおっしゃってください」


 桃田と坂口が声をかける。


「はい、でも大丈夫です。初めての海外だから興奮してるのかも」


 ここ数日は病院だったので午後十時には就寝していたが、夜中の一時ならいつも起きていた時間だ。

 そこからまたリムジンに乗って、マンハッタンへ向かった。

 そして着いたホテルは、セントラルパークの側の高級ホテルだった。

 案内された部屋は、最上階の部屋がいくつもある豪華スウィートルーム。

 ニューヨークの街を一望でき、調度品の何もかも豪華でバスルームは大理石。

 一体一泊いくらになるのか、和音は怖くて聞けなかった。

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