第4話 男の正体
「ここは?」
目が覚めると、知らない部屋だった。広いベッド、豪華な応接セットと特大のテレビ。天井から下がるシャンデリアの照明。
「和音、目が覚めたか!」
誰かに手を握られていて、声が聞こえた方に目を向けると、そこにはさっきのあの男性がいた。
和音のお腹の子の父親だと主張する男。
和音は国立健康管理センターの特別室にいた。
一流ホテルのスイートルームかと思うような豪華なベッドは、とても病院とは思えなかったが側にいたのが白衣の看護士なので、そこはコスプレではない限り病院だと思った。
「良かった。どうやらお腹の子がわたしの波動に呼応したようで、君の体が驚いたようだ。ママを驚かせるんじゃないぞ」
男は和音のお腹に向かって言った。
「あ、君はもう下がっていい」
男に言われて看護士は和音達を置いて出ていった。
知らない男性と二人きりになり、しかも手を握られている。手を抜こうとするが、男は離すつもりはないらしい。
「あの」
「ああ、そうだ。まだ名乗っていなかったな。わたしの名前は燕(えん)だ。本名は地球の言語では表現しづらいので、ここでは燕で通っている。漢字だとツバメとも読む。他の国に行けば別の呼び名もあるが、ここは日本だから燕で」
「地球…? 燕?」
「そうだ。姓はここでは使っていない。しかし、燕と読んでいいのは和音だけだ。他の者は別の名前で呼ぶ。いわゆる通り名だ。#客人__まろうど__#様とか、殿下とか、直接的にエクストラ テレストリアルとか、EBE(イーバ)、ETとか、色々ある」
「E…T?」
色々言われたが、最後の言葉だけは和音も聞いたことがあった。
昔のアメリカ映画に出てきた地球の外からやってきた地球以外の星の住人のことだ。
「君にはどんな呼び方をされてもいいが、できれば燕と呼んでくれ。あ、君独自にわたしに名前を付けてくれてもいいぞ」
和音の枕元で頬杖をついて、彼はにこりと笑った。
「あの…地球の人では…ないんですか?」
「地球でいう、人、ヒューマン、ホモ=サピエンスかということなら、違うな。わたしは太陽系の遥か向こう、地球の言葉で発音するならトュールラークという星から来た」
「え、え…え」
妊娠からの理解が追いつかないうちに、まさかの宇宙人が目の前にいる。
「あ、あの…ドッキリ…ですよね」
妊娠していることも宇宙人現るも、どこかでカメラがあって「信じる」「信じない」がクルクル回っているんじゃないか。
今にもあの扉の向こうから、仕掛け人が出てくるのではと、扉を睨みながら口を閉じてひたすら待った。
「何を睨みつけているのだ?」
「燕」という名の自称宇宙人が、黙り込んだ和音の視線の先を観て不思議そうに首を傾げる。
絹のように美しい銀髪は、部屋に射し込む光を浴びて七色に輝く。
毛穴?ないない、みたいな透き通った肌に整った顔。そして瞳は…美しい透き通ったブルーで猫の目のような形をしている。
そこだけが、和音の知る人間とは違うところだ。
「えっと…」
コンタクト? 特殊メイクなのかな。宇宙人らしく見せるための仕掛けなら、どこかにその片鱗が見えないかと視線を彼に注ぐ。
「和音、そんなに見つめるな。照れるではないか」
あまりに注視していたので、燕がそういう。
「しかし、そなたの気の済むまで見てくれていい。そなたはわたしの子の母。わたしの番なのだからな」
和音の頬に手を当てた燕の手はヒヤリとしていた。
「やめて、触らないで!」
その手を和音は払い除ける。
「だ、騙されないから、わたしはただの一般人です。こんな大掛かりな仕掛けをして騙すなら芸能人にしてください!」
「和音」
「近寄らないで、な、なんなんですか、子供とか、宇宙人とか、何が目的なんですか」
「騙すなど、これは真実だ」
「嘘よ!」
「なら、こうすれば少しは信じるか?」
そう言うと、燕は和音の腕を掴んだ。
「はなし…」
そして次の瞬間、和音はさっきまでいた部屋ではなく、ビルの屋上にいた。
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