第51話 原野商法

 俺の名刺が出回ってる?一体 どういうことだ? と、訝る翔馬に加治良一は「乙川は君の名前を語って詐欺をしょうとしてるからね」と言った。


「詐欺ですか?」と聞くと「翔馬君、君と私は加治と言う同じ苗字だから、議会で問題になってね、私は昨日、国会対策委員長の○○先生に呼ばれて、事情を聞かれたよ」と言って、翔馬の名刺と詐欺の関係の悦明を始めた。


 乙川は殺人及び拳銃の不法所持容疑で逮捕されたが、議員特権で送検を免れた。

 だが親子を死亡させる事故を起こしたことで、所属する社会国民党からは除名処分となり、選挙区の有権者からも見放され、辞職に追い込まれた。

 死亡させた親子の遺族に払った慰謝料で、全財産を失った。


 金に困った乙川は、原野商法と言う手口で金を集めるようになった。

 原野商法とは、例えば、東京などの資産を持つ人に「北海道の○○から○○まで、高速道路を建設する計画が国会で可決しました。国土交通省が候補に挙げて調査している土地が今なら、100万円で買えます。正式に決まるのは間違いないですし、決まったら、国に千万円以上で売ることが可能です。周囲の土地も値上がりしますので、1ヘクターくらい買っておけば、10億円くらいに跳ね上がると思います」と言って、ただでも売れない山奥の土地を売りつける詐欺行為である。


 売るといっても自分の土地など、持っているわけがない。そこで乙川は、道東森林開発という架空の会社をつくり、現国会議員の加治と言う名前と同じ加治という姓を持つ翔馬の名刺を出して「この加治翔馬という人は国会議員の加治良一の父で、現在土地を所有する道東森林開発の会長です。会長は『俺はもう歳だし、国のためならこんな土地なんか安く売ってもいいな』と、おっしゃっています。私は『会長そんな弱気なことは言わないで下さい』と言ってるのですが、会長は意志が強い方で、私のいうことを聞いてくれません」と言って、翔馬の父なってみたり、弟になってみたり、時には息子になってみたりして、加治と言う姓を徹底的に利用した。


 そこに元国会議員という肩書が加わって、分かっているだけで3人が騙された。事態を重くみた自由新民党の国会対策委員会は、加治良一を呼び出して、事情を聞くこととなった。

下手をすれば野党から追及されて、総理大臣の首が飛ぶかも知れない大事件である。


 乙川が釧路にやってきて、自分の名前をニュー東宝の花束に書いたり、望洋亭に名刺を置いたのは、地に落ちた乙川隆の名を、なんとか引き上げようとした、虚しい努力の表れであった。


 だが、下手をすれば、元は農林水産省の官僚で衆院議員であった乙川の名前と、道東森林開発と言う、いかにもどこかの社団法人のような名前で、多くの人が騙されてしまうかも知れない。その時にはまた翔馬の名前が利用される。

 もうこれ以上、乙川を野放しにしておくわけにはいかなくなった。

 乙川を絶対に許さない!と、翔馬は決意を新たにした。

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