第38話 フアッションモデルデビュー

 今日から翔馬は仕事探しだ。先ず釧路工業高校の就職課に行ってみた。この部屋に來ることはないと思っていたのに、來ることになってしまった。俺も運の悪い男だなと、思いながら、就職課の部屋に入った。するとそこにアイスホッケー部のOB の金子がいた。

 金子は翔馬が入学した時三年生で、ゴールキーパーだった。

 そのころは翔馬も入部した当初はゴールキーパーだった。8月になって地区予選の試合中に金子が怪我をして翔馬に交代した。その試合は翔馬が1点を守り切って勝利した。


 金子はその後も試合に出場できなくて、シーズンを終えるまで翔馬がゴールキーパーを務めた。最後のシーズンを全試合出場できなかった理由は違うが、金子も翔馬と同じ運命を辿った人だった。

 金子は卒業後、国土計画アイスホッケーチームの事務局員となっていた。


「金子先輩、久しぶりですね、お元気でしたか」

「俺はいいけど、お前の方が大変だろ、これからどうする気だ」

 流石に金子は実業団の職員だけあって、翔馬が仕事探しをしてるのを知っていた。


「分かりません。今は何も考えたくありません」と正直に答えた。

「翔馬、お前はホッケーを諦めたのか、俺は怪我で諦めるしかなかったけど、お前の体はピンピンしてるんだから、どっかのコーチでもしてみたらどうだ」


「コーチですか、もしあればやってみたいです」

「東京の大学ならあるかも知れないな、どっか聞いて見ようか」


「僕が大学生のコーチですか、それはできません」

「まあ、東京の大学のレベルは釧路の中学生以下だから、教えることはできると思うけど、向こうも年下のお前に教えてもらうのは嫌かも知れないな、他にどっかいいとこがないか調べておくよ」と、あまり当てにできない話ばっかりで、めぼしい収穫はなかった。


 翌日、また例によって情報通の可乃子という人が、仕事の話をもって来た。

 可乃子は料理研究家で、ローカルタレントでもある。 可乃子が今回持って来た話は、フアッションモデルであった。


 釧路には丸三鶴屋デパートを筆頭に、㋣北村、クシロデパート、オリエンタルデパートなど、フアッション関連の大きい店がいっぱいあった。

 これらの店はそれぞれ独自のブランドを持っていて、テレビのローカル番組の主要なスポンサーであった。また縫製メーカーもたくさんあって、宣伝活動もしのぎを削っていた。


 そうした状況の中で、新製品の発表や、セールの告知など、タイトな撮影スケジュールに対応できる、モデルを必要としていた。

 元々、〆一組の黒崎が翔馬に狙いを付けて近づいたのは、身長が高くて、女性受けしそうな雰囲気を持っていることであった。


 これらの条件に翔馬はピッタリと合っていた。

 可乃子は料理研究家として活動する一方で、モデル事務所にも関与していて、その方面でも顔が利く人だった。

 事務所は深夜におよぶ撮影の時にそなえ、スタッフのための宿泊施設も持っていて、すぐにでも入居が可能であった。

 こうして翔馬はフアッションモデルとして、デビューすることとなった。




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