第33話 寮生活とお嬢様
朝が来て窓を開けると、釧路の街は真っ白い霧に包まれていた。
「凛々子ちゃん、昨夜考えたんだけど、今日から学校の寮に泊まるよ。寮なら母さんも許してくれると思うし、勉強もしなくちゃならないからね」
翔馬も凛々子も半年後には卒業が待っている。翔馬は長期欠席になっていた。このままでは進学はおろか、卒業も危なくなっていた。
幸いにアイスホッケー部の選手は優先的に入寮できた。
学校側も運動部の選手用に寮の枠を多めにとってあり、竜馬はその日から寮生活となった。ただ三か月のブランクを取り戻すため、猛烈な勉強が必要であった。
函館にいた三か月間は、良助が翔馬に内緒で東京の大学へ入学させようとして、それに向けた個人授業を受けていた。教えてくれた先生は、母の房子が卒業した北海道教育大学函館校の同期生の長谷川さんという人で、長谷川さんの弟の葛和真さんという人が釧路公立大学の准教授であった。釧路公立大学は二年前に創設された経済学部だけの単科大学で、経済学科と、経営学科があって、葛和さんは経営学科の先生であった。翔馬が釧路工業高校に入ったのは、アイスホッケーだけが目的で、大学受験など、一度も考えたことがなかった。だが高校の卒業が近くなって、そうもいられなくなってきた。
もし実業団チームから指名がなかったとしたら、良助が考えている大学の入試を受けるか、どこかの会社に入るかの、選択を迫られる。いずれにしても今いる釧路工業高校を卒業しないことには何も始まらない。翔馬はブランクを取り戻して無事卒業できるように、葛和先生の家に押しかけて、勉強を教えてもらうことになった。
実はこのときすでに、翔馬が抜けた釧路工業高校アイスホッケーチームは、地区予選は勝ち進んだものの、全国大会の3戦目で宿敵の苫小牧東高校に4対3で惜敗して、3年生は引退して勉強に励んでいた。彼らと机を並べていれるのもあとわずかだ。
みんな、それぞれの道に向けて、勉強に取り組んだ。
凛々子と母の登美子が米町の佐々木勝也邸に来て。三か月経った。
登美子は親子二人で、居候しているのだからと、炊事、掃除、洗濯と、普通の家庭の主婦の三倍以上も働いた。働くのは釧路に来た時からずーっと魚市場で働いていたので慣れていたつもりでも、体は正直で、過労と他人と同居する精神的疲労が重なって、10月の末、釧路労災病院に入院することになった。
凛々子は母の分もと、一所懸命に働いた。館の主の佐々木勝也は「お手伝いさんも運転手もいるし、週一回はコックが来て食事を作ってくれるから、君は受験勉強に励みなさい」と言ってくれた。だがお手伝いさんという人は週に3日の契約で、彼女がいない間は凛々子が家事をすることが結構あった。また運転手という人は別棟に住んでいて、普段は本宅には足を踏み入れなかった。
また佐々木勝也は高齢で、身の回りの世話は女の手が必要であった。
母が入院したことで、「母はこんな苦労をしてたのか」と、初めて知ることがいっぱいあった。それでも朝夕は、運転手付きの車で通学できた。傍から見ればお嬢様だ
そうこうしているうちに、進学の志望校を決める時期がきた。その後は三者面談が始まる。それまでに母が退院できるのかと、心配になってきた。
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