第28話 初戦 快勝

 連続銃弾撃ち込み事件は〆一組の犯行と推定した捜査本部は、犯行の動機の解明に取り掛かった。動機のない犯行はあり得ない。捜査本部は先ず倫太郎の家に撃ち込まれた件の動機について調べることにした。倫太郎が一か月前まで代表を務めていたキワミチ水産が〆一組の傘下にあることは周知の事実で知らない者はない。

 とすれば、倫太郎が辞めることになった理由が分かれば、動機の解明に繋がる。


 そのキワミチ水産は倒産寸前の状態になっていた。その責任を取って辞めたと考えると、合点がいく。狙われたのは多分、赤字になって頭にきた黒崎が腹いせにやったのだろう。


 次の動機の解明は翔馬に移った。刑事の家に撃ち込んだのは多分、霧による目標の誤認と思われる。この刑事はオットリとしたタイプで、30年刑事をやっていながらまだ犯人を逮捕した経験が一度もない。なので、過去に携わった事件の犯人が、復讐したとは思えなかった。やはり翔馬を狙ったのは間違いない。


 そこで翔馬を調べてみると、母親の房子は戸籍を偽って、伊藤房子と名乗っていたことがあった。今は本名の加治に戻っているが、ろくな者でない。翔馬はその息子だ。ろくな者でないのは明らかだ。とすれば恨んでいるヤツは〆一組以外にもいるはずだ。


 今回は脅しで撃ったとしても、次には本当に撃つかも知れない。トカレフの弾倉には弾が8発入る。使われたのが3発だから、まだ5発残ってる。下手をすれば本当に殺すかも知れない。事件関係者が捜査中に殺されたとなれば、警察の汚点になる。


 時期は丁度、全国高校アイスホッケー選手権の地区予選が始まる直前であった。

 試合会場の柳町アイスアリーナには大勢の観客がいる、もしそこで銃を発射されてしまったら、死傷者が生まれる可能性があった。


 釧路警察署は釧路工業高校に連絡して、アイスホッケーの試合に、翔馬の出場を自粛してもらうように要請した。

 事件の解明に当たり最後に残ったのは、倫太郎の家で起きた事件と、翔馬との関係であった。捜査陣の調査で分かったのは、倫太郎の娘の凛々子と翔馬は恋人関係であった。

 とすれば、この二人の関係を妬む者がいて、銃を持つ組織の誰かに依頼して、脅しを掛けたとも考えられる。

 いずれにしても凛々子もどこかへ隠さなければならなくなった。


 試合に出場できなくなった翔馬は母の房子と祖父の加治良助のいる函館に身を隠すことになった。元々良助は翔馬に函館にいて欲しかったので大賛成だ。

 房子も同じだ。翔馬本人が釧路に居たいと言っても卒業したら、何らかの理由を付けて、函館につれて来る気であった。その後は東京の大学へ行かせると、ずーっと先のことまで考えていた。それが以外にも早く実現して大喜びだ。

「子の心親知らず」だ。本当に口の中の親知らずが痛くなりそうだ。


「もしどこかへ行くことになった時は、絶対に二人で一緒に行こうね」と、あんなに固く約束した二人なのに、別れなければならなくなってしまった。


 良一の妻で秘書の加治静香が翔馬を迎えにやってきた。函館に行くくらい、幼稚園児だってできる。それを代議士の秘書が迎えに来るのは、「逃がさないため」に他ならない。

 ついにその時がやってきた。凛々子は、翔馬が乗った特急スーパーおおぞらが小さくなって、点になって、見えなくなるまで手を振った。


 その日、釧路工業高校アイスホッケーチームは釧路地区予選で、翔馬なしでも5対0で快勝した。

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