第27話 三件の連続狙撃事件
霧が立ち込める深夜の町に「バーン」と一発、銃声が響いた。近所の人たちは何ごとが起きたのかと飛び起きて、窓を開けて外を見た。だが町は濃い霧に包まれていて、1メートル先も見えなかった。
「兄貴、翔馬に一発見舞ってやりました。これで翔馬はビビると思います。大成功です」と正木は自信満々で兄貴分の日高に報告した。すると日高は「おい正木、おめぇは何を撃ったんだ?」
「決まってるじゃないですか、翔馬を嚇かすためですから、ヤツの家の玄関に一発撃ち込んでやりました」
「バカ野郎!」今朝のテレビを見てねぇのか。おめぇが撃ったのは翔馬の隣に住んでる捜査1課の刑事の家だ。どこを見てたんだ!」
「えっ!そうなんですか?…すんません、実は霧で何も見えませんでした」
「しょうがねぇヤツだな、捜査1課の連中が打ち込まれた弾を調べれば、線条痕からうちのトカレフで撃ったことが分かっちまうだろ」
「でも兄貴、あのトカレフは処女銃だったんですよね、だったら線条痕のデータは捜査1課にはまだ無いと思います」
「まあそういうことになるな…………」と考えた後「バカ野郎!刑事の家にぶち込んでも刑事が金を出すと思ってんのか。この薄らバカ!」と烈火のごとく怒りだした。
「兄貴、大丈夫です。そう思って、函館の加治の爺さんのとこに、弾を郵送しておきました。今頃は金を用意してると思います」
「弾を郵送したっていうんだな、じゃあ金の受取りはどうするんだ」
「大丈夫です。現金で受取ることになってます」
「じゃあ爺さんの代理人が持ってくるんだな」
「いいえ、そうじゃありません。こっちから取りに行きます。だから旅費をお願いします」
「おい正木、おめぇ今なんて言った?」
「はい、金を取りに行きますので函館までの旅費をお願いします」
「金を取りに行くから旅費をくれだって? そんなとこにノコノコと出かけたら、刑事が待ってるだろ。おめぇ、うちの組に何年いるんだ。そんなことガキでも分るだろ、この薄らバカ!」と、正木をこっぴどく叱りつけた。
「そうですか。すみませんでした」と言って、正木はトボトボと、組の事務所を出ていった。
☆☆☆
「何が兄貴だ、あの薄らバカ、この俺がそんなヘマをこく訳ねぇだろ」と、独り言を呟きながら、正木は浦見町の倫太郎の家に行った。
時計は正午を指していた。倫太郎は会社にいる。妻の登美子は趣味のサークルに行っている。凛々子は学校だ。誰もいないのを確かめると、玄関に向けて「バーン」と一発銃を撃ち込んだ。
銃声を聞いた人たちが何が起きたのかと、外に飛び出した時にはもうそこには誰もいなかった。
正木はその足で鳥取の翔馬の家に向かった。翔馬の家の周りには、銃を撃ち込まれた刑事の家を警備する制服の警官が一人いた。
正木は組のバッジを外してポイと捨てた後、警官の透きを狙って「バーン」と一発、銃を打ち込んだ。
警官が振り向くと、逃げていく男の背中が見えた。「待てぇー」と言って追いかけたが、正木の逃げ足は速かった。アッという間に国道を走る車の間をすり抜けて、人込みの中に消えていった。
釧路警察署に「連続狙撃事件本部」が立ち上げられた。
三件の拳銃撃ち込み事件に使用された銃に共通するのは、7,8m/mの口径と、右回りの線条痕であった。
線条痕というのは銃固有のもので、銃身に刻まれたライフリングという溝によって作られる。ライフリングには右回りと左回りがあって、メーカーによって異なる。
7,8m/mの口径と、右回りの線条痕から使用された銃はトカレフと推定された。
トカレフは製造された数が膨大で、戦後日本に密輸された銃の中で最も多いのがトカレフであった。
厳しく規制されている日本で、銃を持っているのはその筋の人たちが多いのと、現場に落ちていたバッジから、捜査本部は一連の拳銃撃ち込み事件は、〆一組の犯行と推定して、捜査に当たることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます