第24話 ラブホテルの階段
ルネッサンスホテルは海が見える高台にあった。オーナーは古井という50代半ばの女性で、彼女は倫太郎に「お待ちしておりました。早速ですが現場を見て下さい」と言って、薔薇の間という部屋の鍵を持って3階に昇った。
部屋に入ると「二人はこの部屋で亡くなっていました」と言った。
「亡くなったとは何のことですか?」と聞くと「ご存じじゃなかったのですか、半年前にこの部屋で心中事件があったのですよ。それからはもう大変でした。テレビ局は來るし、ご両親は泣くし、学校の先生も大変だったでしょうね」
「学校の先生…ですか?」
「ええ、亡くなったのは高校3年生の男の子と、中学3年生の女の子だったのです」
凛々子は中学3年生、翔馬は高校3年生で二人とも、亡くなった二人と同じ歳だ。
二人の間に何があったかは分からないけど、他人事ではないような気がした。
「あのぅ、すみません。河村さんが今日お来しになったのは、お金のことではないのですか」
と、古井に言われて思い出したように言った。
「ええそうなんです。あと1回残ってますね」
「本当にすみません。気にはなっていたんですよ。でもあの事件が起きてから、すっかり、お客さんは来なくなってしまいました。でも必ずお返しします。もう少し待って下さい」と言われて思わず「いいんですよ、がんばって下さい」と言ってしまった。
甚弥ならきっと「死んででも貸した金を返せ!」と言うに違いない。だけど倫太郎は彼女が気の毒で「返して下さい」とは言えなかった。
やっぱり俺には借金の取立て屋は無理なのか、と思いながら会社に帰ると甚弥が待っていて「今日ルネッサンスホテルに行ったらしいですね。それで、成果はあったんですか」と言った。
「いや、私には無理でした」
「そうですか、まあ気にすることはないですよ、あそこはあんたでなくたって無理ですよ」
「それは最初から分かってたってことですか」
「そうです。あそこで心中事件が起きた後、あのオーナーに会いました。その時思いました。この人は心労で倒れてしまうかも知れないってね」
「心労で倒れたくらいで諦めるのですか、死んでも払わせるのが㋥佐々木だと思っていましたが」
「河村さん、死んだって自殺じゃ保険会社は金を出しませんよ」
「でもこの前は山田文房具店から500万円送ってきましたね。あれは保険金じゃないのですか」
「河村さん、あれは事故ですよ。あの日俺たちが帰った後、山田さんは交通事故にあったんですよ」
「はぁ、そうですか…………」
翌朝のテレビのローカルニュースで「昨夜白樺台のホテルで、オーナーの古井さんが血を流して倒れているのが、宿泊していたお客さんによって発見されました。
階段から誤って落ちたものと思われます」
………誤って階段から落ちた?本当だろうか。もしかしたら……突き落として殺した人がいて「私が発見しました」と言ってるのではないだろうか?……と倫太郎の頭の中に疑問が湧いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます