第22話 帳簿のゴミ掃除
㋥佐々木の社員となった倫太郎に「河村さん、今日はゴミ掃除に行きますので付いてきて下さい」と、甚弥が言った。
「ゴミ掃除ですか?」
「そうです。これを見て下さい。この人に貸した1,000万円のうち、わずかばかりですが未回収金が残っています。今日は残リを全部取り立てて、帳簿を綺麗にしたいと思います」と、言って、貸し付け台帳を机の上に広げた。
見ると残高は500万円となっていた。この500万円の残高のことを帳簿を汚すゴミというらしい。
因みに某都市銀行では1億円以上の預金者を資源ゴミといい、1,000万円以下の預金者を生ゴミと呼んでいた。その中間はただのゴミである。
今日のゴミ掃除は山田文房具店であった。山田文房具店には1年前に1,000万円貸し付けていて、最後に支払われたのは5か月前であった。元金の残高は500万円であったが、5か月分の利息が250万円と延滞利息が250万円加算されて、合計1,000万円の残となっていた。
「山田さん、あんたは前回私が来た時、8月末には必ず払うと言っていましたね。
それで私は今日やって来たのですが、金の用意は出来てるんでしょうね」と甚弥が言うと、山田文房具店の社長の山田四二男は「今日は利息を100万円を払いますので、残りは来月に必ずお返しいたします。お願いいたします」と言って額を地べたに擦りつけて懇願した。
だが甚弥は「山田さん、先月も同じことを言って100万円貰いましたが、来月にはまた同じことを言うんでしょ。そうなったらですね、利息がまた増えて、うちの帳簿の汚れは増える一方です。いつまで経っても綺麗になりません。もうそろそろ覚悟を決める時が来てるように思いますけどね。あんたはそう思わないんですか、困った人ですね」と、冷たく言い放った。
「覚悟と言われましても、私には払える金はもう1銭も残っていません」
「山田さん、覚悟というのはですね、金なんかなくたってで出来るんですよ。あんたが決断さえすれば、簡単にできることなんですよ。例えばですね、あくまでも仮の話ですけど、あんたが生命保険に入っていたとすれば、ロープを1本用意するだけで、簡単に解決することじゃないですか。たったそれだけであんたは楽になれるし、ご家族の皆さんは安心できるんですよ。そう思いませんか。私だったらそうしますけどね」
翌週、㋥佐々木に現金書留の限度額いっぱいの500万円入った現金書留が2通、合計1,000万円郵送されて来た。同じ日、山田文房具店では店主の山田四二男のお通夜が行なわれていた。
こうして山田文房具店の帳簿は綺麗になった。だが㋥佐々木の書棚には500万円くらいの残高の貸付台帳が、まだまだ沢山あった。
「河村さん、この中から好きなのを選んで下さい。来週からはあんた一人で行ってもらいます」と甚弥は言った。
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