第18話 FW9のメモ

 あの日、凛々子は柳町アイスアリーナで、アイスホッケー選手と出合った時、その激しさにジーンと体の芯を熱いものが走るのを感じた


 そして丸三鶴屋デパートの屋上で翔馬という人と氷祭りの思い出を語りあった時「次の練習試合も見に来て下さい」といわれた。その時、あのジーンと来る快感がよみがえった。

 そして今日、再び試合の日がやってきた。凛々子はリンクサイドに陣取って、背番号9の選手を追い続けた。今日も翔馬は背番号9のユニホームを着て、颯爽と氷上を滑っていた。


 試合が終わると翔馬は璃々子のもとに寄ってきて「来てくれたんだね。バスの前で待っていて」といって、選手控え室に入って行った。


 選手出入り口に選手を乗せるバスが止まっていた。色紙とペンを持った女の子が10人くらい、バスに乗る選手を待っていた。それぞれお目当ての選手のサインを貰おうと、必死になって張られたロープを腹で押し付けて、その都度係員に「ピー」と警笛を鳴らされて「下がって下さい」といわれていた。

 そして選手たちが大きなバッグを肩から下げて、バスに向かって歩いてきた。

 そしてお目当ての選手が来ると、女の子が、サインをねだり、色紙を突き出した。だが選手たちはサインを禁止されているのだろうか、真っすぐ前を見て歩いていた。


 背番号9の翔馬も真っすぐ前を見て、凛々子のを前を通リバスの中に入っていった。それでも女の子たちは諦めずにバスの窓に向かって、色紙を出したり、プレゼントの包みを渡そうと、バスの窓に向かって手を差し出していた。

 ここでようやく窓のガラスを少し上げて、隙間から何人かの選手がサインに応じていた。その中の一人の選手が凛々子に、三つに折ったバインダーノートの一枚を渡してくれた。バスが過ぎ去って誰もいなくなったアイスアリーナの前で、ノートの紙を開くと、走り書きのような文字で、FW 9ショウマ 0154 ○○ ○○○○ と、電話番号らしき数字が書いてあった。


 この年の5月に東邦交通から釧路バスと名前が変わった路線バスに乗って、浦見町の家に着くころはもう日が暮れていた。家の近くの公衆電話にテレホンカードを差し込んで、メモに書かれた番号のボタンを押した。リーン、リーン、と20回くらい鳴ったけど、応答はなかった。どうやら未だ試合後のミーティングをしているようだ。明日かけ直すことにして、家に入ると父と母は凛々子をチラッと見ただけで、何も言わなかった。何かいつもより、暗い感じがした。夕食を食べているときも様子は変わらなかった。

 その日は翔馬が書いたメモを教科書に挟んで、抱いて布団に入った。だが中々寝つけなくて、一睡もしないまま朝を迎えた。


 6時ころ、布団から出るとすぐに、昨日の公衆電話ボックスに行って、電話番号のボタンを押した。するとリーンと1回鳴るとすぐに、電話が来るのを待っていたかのように「もしもし」と応答があった。

「凛々子です」というと「今度の日曜日の正午にJR新富士駅で待ってます」と言ったところでテレホンカードの残が切れて「ツー」という音に変わった。


ポケットの中を探してみたけど10円玉はなかった。だが場所と時間は分かったので、1週間後の日曜日に二人は会うことになった。















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