第17話 17年ぶりの再会

 釧路で起きた事件を聞いた加治良一はそれが姉、房子が絡む事件だということはすぐに分かった。

 房子の名が新聞に載る前に何とかしなければ、父 良助に犯罪者となった娘と会せてしまうことになる。これではせっかくの再会の喜びも半減してしまう。

 ここは少々問題のある行為であっても、衆院議員の肩書をチラつかせればどうにでもなる。

 案の定、衆院議員の肩書は物を言った。良一が関係方面に手を回すと、わずか一日でけりが付いて、房子は無罪放免となった。


「房子、お前 生きていてくれたんだな……本当によかった…………」

「ごめんなさい、お父さん……」と、二人は抱き合って、17年ぶりの再会の喜びに浸った。


「子どもはどうした? 俺の孫はどうしたんだ。一緒に来てくれなかったのか?」

「大丈夫よ、あそこにいるわ。翔馬隠れてないでこっちへいらっしゃい」と房子が呼ぶと、でかい体をした翔馬がのっそりと、良助の前に現れた。


「おう、君が翔馬君か、亡くなった母さんにそっくりだ」

 房子の母は房子が北海道教育大学の学生だったころ、病に伏して帰らぬ人となった。

 弟の良一は今の翔馬と同じ、高校三年生だった。

 あれから20年、良一は立派な政治家になった。だが自分は人目を忍び、隠れるように生きてきた。それを許してくれて、救い出してくれた人たちに、感謝の念を抱かずにはいられなかった。


 しかし、翔馬は複雑な気持ちを捨てきれなかった。祖父という人は現れた。

 だが、父という人は一体誰なのか。生まれてこの方、教えてもらったことがない。

 母が連れて来る竹田という男は殺人犯であった。


「翔馬君、君は高校三年生だったね。卒業したら東京の大学に行ったらいいと思うけどどうだろうかな。俺は東京にも家があるから、君とお母さんはそこに住んでもいいし、マンションを借りてもいいんだよ」と、祖父の良助は言った。

だが翔馬は「僕は東京の大学には行きません。アイスホッケーの実業団チームに入ります」と、言った


「立派な体をしてると思ってたけど、君はアイスホッケーの選手だったんだね。東京の大学にもアイスホッケー部はあるから、大学を卒業してから実業団に入ってもいいんじゃないかな」


 東京の大学のアイスホッケー部なんて、レベルが低すぎて、釧路や苫小牧の小学生にだって、コロコロと負けるに決まってる。そんなチームにいたって、実業団から誘いが来る訳がない。

「僕は釧路の十条製紙アイスホッケー部の背番号9が目標なので、東京に行く気はありません」と翔馬はきっぱりと言い切った。


 だが、翔馬が知らされていないだけで、〆一組から援助を受けている選手を十条製紙アイスホッケー部が果たして入団させてくれるのか、翔馬の背番号9に暗雲が垂れ込めてきた。


 ☆☆☆


 函館で房子が加治良助と再会を果たしたころ釧路では、倫太郎と家族に危機が訪れた。日高絹子殺しの犯人が逮捕されて、倫太郎の疑いは晴れた。

 だが、連日テレビで流される報道によって、キワミチ水産が市民の敵、〆一組のグループ企業だと、小学生までが噂をするようになっていた。テレビのCMは打ち切られ、キワミちゃん印冷凍食品シリーズは、一品も残さずに、スーパーの棚から排除された。


 社長の倫太郎に貼られたレッテルは、「人殺し企業の代表」であった。真相がどうであれ、一度立った噂は、際限なく広がり続ける。ついに倫太郎はキワミチ水産の代表の座を辞することとなった。もちろん慰労金など出るわけがない。


 それどころか黒川は「この会社を黒字にするのがあんたの役目でしょ。そうですよね河村さん。赤字はあんたに補填してもらうしかないですね」と言い、

 法外な金を請求した。妻の登美子は趣味のサークルを出禁になり、凛々子は高校進学も危うくなってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る