第15話 這乗りの真相
釧路警察署に「日高絹子殺人事件捜査本部」の看板が掛けられてから一週間経った。だが新しい情報はなく捜査は行き詰まっていた。だが房子を探すことになった第二班は、〆一組が過去に起こした犯罪の取り調べ調書の中に、親子の行方不明者がいたことを発見した。
事件というのは、BAR ロダンのマダムで、黒崎の愛人であった「美智子」という人が、〆一組の組員の矢部という男と密通していた。激怒した黒崎は矢部を殺して、美智子には軽いかすり傷程度の怪我を負わせて、お灸をすえることにした。
この役目として送り込んだのが、竹田という男であった。竹田は〆一組の一員となってからまだ日が浅く、警察に顔を知られていなかった。そこで事件が発覚したとき、どこかへ隠すのに都合がよかった。
しかし、実際にやらせてみたら、経験不足を露呈してしまった、先ず肝心の矢部に逃げられた上、「かすり傷でいい」と言っておいた美智子には重傷を負わせてしまった。
黒崎は激怒した。だが自分の愛人が子分と密通していたとなれば、組長としての沽券に関わると思った黒崎は、事件がなかったことにして、竹田には組を追放するだけに留めた。
ところが、マダムの美智子が重傷を負わされたのを見た房子というホステスが、恐れをなして店を辞めてしまった。
竹田には伊藤房江という内縁の妻がいた。房江は当時妊娠5か月であった。
このとき、房子も妊娠5か月であった。竹田という男は妊婦を見ると欲情する性癖の持ち主であった。
なので多分、竹田が房子をどこかのに匿っているのだろうと思われた。
だが誘拐ではないのでそれ以上追及することはなかった。
以上が当時、事件を捜査した刑事が」関係者から聴取した記録であった。
この竹田がどこかに匿ったと思われる房子というホステスが、倫太郎が言う加治房子ではないか、と行方不明者の捜査をする捜査第二班は睨んだ。
早速、殺人事件を捜査をする第一班に情報を提供して、合同捜査をすることになった。
先ず房子の子どもが生まれていたら、現在は17歳で高校三年生のはずである。
そこで、加治という姓の子どもがいないか、各高校の在校生名簿を調べることにした。
だが加治という名の生徒はどの高校にもいなかった。念のため倫太郎が言っていた乙川も調べてみた、しかし乙川という名の生徒もいなかった。
ここまでは倫太郎も過去に可乃子から借りた卒業アルバムで調べたことと全く同じである。だが警察は威信をかけて捜査を続行した。
すると市役所の職員から興味深い情報が寄せられた。それは、小学校に入学する年齢の子を持つ家庭に、居住地の公立小学校を通知する案内書を送ったところ、伊藤という女性が市役所を訪れて「伊藤ではなく、加治という名で入学できないでしょうか」と尋ねた。そこで「戸籍簿では伊藤翔馬となっています。戸籍名以外での入学は出来ません」と答えたところ「分かりました」と言って帰ったという。
こういう例はあまりないことなので、市の職員は覚えていたという。
これはひょっとしたら、竹田と内縁関係にあった伊藤房江が産んだ子どもは実は、竹田が匿っていると思われていた房子が産んだ子ではないか、とも考えられる。
とすれば、伊藤房江が産んだ子はどこへ行ってしまったのか。と、新しい疑問が生じることとなった。
そこでその当時に起きた他の事件を調べたところ、お腹に子どものいる女性の遺体が興津海岸で発見されていたことが分かった。記録では身元を割り出す物が何もなく、身元不明のまま市が火葬とした。となっていた。
とすれば、遺体で発見された女性は伊藤房江で、伊藤房江と名乗って市役所に来た人は実は加治房子ではないか、とも考えられる。
これが事実であれば、這乗り(戸籍の乗っ取り)ということになる。そこでもう一度各高校を調べると、釧路工業高校に伊藤翔馬という名の生徒がいた。
もはや加地房子が伊藤房江の戸籍を這乗りしたことは、決定的となった。
するとその日、行方不明となって7年目に推定死亡とみなされていた竹田が捜査本部に出頭してきた。
そして竹田は「私が日高絹子さんを殺しました」と自供した。
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