第13話 釧路警察署

 房子と翔馬親子を支援すると約束した黒崎は、金の出どころを隠す手段として、

キワミ企画株式会社という新しい会社を立ち上げた。〆一組は建前上は〆一商事有限会社となっているが〆一商事の実態は、〆一組であることを知らない人はいない。

 〆一組の中でまともな商売をしている所はキワミチ水産以外にない。

 新会社はキワミチ水産が株式を100%持つ子会社にして、キワミチ水産が製造販売する「キワミちゃん印冷凍食品シリーズ」の販促活動をする会社としてスタートした。


 新会社の定款には会社の事業目的として、「老人ホームの運営」と「学習塾の運営」と「その他」となっていた。

 会社の設立に当って定款に記載した事業目的は、必ずしも実際に行わなくてもいいことになっている。

 また、「その他」と、一項目付けるだけで、どんな事業でもすることができる。

 例えば老人養護施設が亡くなった老人の遺族に棺を売ったり、学習塾が受験に失敗した生徒に天井から吊るすロープを売ることもできる。


 なので、老人ホームと学習塾の会社であるキワミ企画株式会社は、何をやってもやらなくても、法的にはなんら問題はない。

 この新会社の代表に就任したのは日高絹子であった。絹子は今は〆一組の構成員の日高昇の妻だが、元は銀行員であった。だが横領事件に絡んで解雇された。その後黒川の愛人となって、〆一商事の経理を担当するようになった。また、黒川が房子に接触した時の密使であった。絹子は〆一組グループの内情を最もよく知る人物であった。


 絹子はキワミチ水産の倫太郎に「キワミチ水産の営業活動の一切は、今日から私が仕切ることになりました。あなたは製造に専念して下さい」と、命令口調で言った。

「ちょっと待って下さい。あなたはどういう立場でキワミチ水産を仕切るというのですか」と倫太郎は、絹子に問い質した。すると絹子は「私はスーパーバイザーとしてこの会社に派遣されました。あなたも私の管理下にあります!」と居丈高な態度でのたまった。

 絹子の威圧的な物言いにあっ気に取られて倫太郎は、「はぁそうですか」という他なかった。


 翌週、二人の刑事がやってきて「河村倫太郎さんですか、聞かせてもらいたいことがありますので署まで同行をお願いします」と、有無も言わさずに倫太郎は釧路警察に連行された。

 取り調べ室で刑事は写真を取り出して「この人を知っていますか?」と言った。


「はい知ってます。日高さんです」

「下の名も知ってますか」


「はい、日高絹子さんです」

「そうですか、知ってるんですね。日高さんとあなたはどういう関係ですか」


「関係と言われましても、うーん、そうですね、日高さんは子会社の社長です」

「ではあなたはどういう立場ですか」

「私はキワミチ水産の代表です」


「では立場として、あなたは日高さんの上にいる訳ですね」

「まあ、そうですね」


「そうか、よく分かった。それでお前は日高絹子を殺したんだな!」

「殺した? それはどういうことですか」


「お前は立場が下の絹子に命令されたので「カッ」となって殺したんだろ!」

「日高さんは死んだのですか。知りませんでした」


「とぼけんな!絹子がお前に命令してるのを、お前の工場の社員がはっきりみてるんだぞ、これでも白を切るつもりか!さっさと白状しろ!」言って、机をたたきつけた。

 それでも「私は知りません」と言うと「お前は春採の海岸を知ってるだろ」と刑事は言った。「はい知ってます。岸壁のある海岸ですね」

「やっぱり知ってるんだな、あそこの海岸で昨日、絹子の遺体が発見された。死後1週間経っていた。お前と絹子が言い争っていた日だ。もうこれで十分だろ、しばらくここにいてもらうからな」と、倫太郎は釧路警察署の留置所に拘留されることとなった。





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