第10話 アイスホッケーチーム

 釧路市は屈斜路湖を源流とする釧路川と、新釧路川、通称 新川という2本の川

に添って作られた広大な平野の町である。

釧路川の南側に小高い丘がある他は、東京都の10倍以上もあるだだっ広い平野がどこまでも広がっている。


北側を流れる新川を渡ると鳥取町という地区で、名前が示す通リここは明治初期に鳥取県から移住した人たちによって開拓された。

 この鳥取町には十条製紙釧路工場があって、さらに西へ進むと大楽毛という地区になる。

ここには本州製紙釧路工場があって、このあたり一帯で一つの街を形成している。

この年、釧路市を本拠地とする、十条製紙アイスホッケーチームが、王子製紙、国土計画、古河電工、熊谷組、などの強豪チームを打ち破って、全国制覇を果たした。


 釧路市はスケートが盛んな町で、スピードスケートでは冬季オリンピックの代表選手を何人も輩出している。また氷上の格闘技とも呼ばれるアイスホッケーの選手は、男の子たちの憧れの的であった。


 全国の実業団アイスホッケー選手の出身校を見ると、苫小牧東高校と釧路江南高校と釧路工業高校が圧倒的に多い。

 釧路工業高校と釧路江南高校は冬季間は、春採湖の天然リンクで練習をしていた。

春採湖の近くには〆一組の事務所があって、組長の黒崎は運転手に車を止めさせて、選手の練習を見るのを日課としていた。

 素人でも毎日見ているとスピードがあって、当たりの強いホッケー選手の資質は分かるようになる。黒崎は一人の少年に目を付けた。


 黒崎は組織の黒いイメージ刷新を図り、スポーツ関連の事業に触手を伸ばしていた。

黒崎が見た少年は長身で、女性受けしそうな雰囲気を持っていた。

 この男なら、キワミチ食品のイメージアップに使えそうだ、と思った黒崎は部下の日高の妻の絹子を使って少年の身辺を調べさせた。

 絹子は元は銀行員で横領事件に関係して逮捕されたが、黒崎に救われて一時は愛人であった。日高の妻となった今も、黒崎の忠実な部下である。


 絹子の調査で分かったのは、少年は伊藤翔馬という名で、父親はなく、母親一人の手で育てられていた。

 母親は伊藤房江といい、十条製紙釧路工場の近くにある十条サービスセンターというスーパーの店員をしていた。


 父親がいない経緯は不明であったが、女が一人で高校生を育てるのは容易ではない。

ましてや、釧路工業高校のアイスホッケー部ともなれば、授業料の他、用具代、遠征費、食事代など、普通の生徒を遥かに上回る経費を必要とする。


 黒崎は房江に卒業までの学費、その他一切の経費の提供を約束することで、翔馬の取り込みを図った。房江は翔馬の将来を考えると、少々の制約はあっても十分な環境の下で伸び伸びと練習させたいと思った。

 房江は資金の提供を受けていることを、翔馬に知らせないことを条件に、黒崎の提案を受け入れることにした。
















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