第7話 卒業アルバム

 2月 釧路にしては珍しく20センチくらい積もる雪が降った。釧路は北国だけど、雪はあまり降らない。4~5センチくらい積もる雪が、年に数回降るだけである。

 東京など本州の都市では雪は寒い日に降ると思われている。だが釧路で雪が降るのは温かい日である。温かいとはいっても、日中でも氷点下10度以下で、夜になると氷点下20度以下になる。濡れたタオルを2~3回クルクルと回したら、コチコチに凍って野球のバットのようになってしまう。


こんな寒くて雪が少ない釧路ならではの「氷祭り」という行事が毎年、二月の第一土曜日から翌週の日曜日までの一周間開催される。この祭りの会場は幸町というところで、普段は豪華客船が停泊する埠頭の一部である。

 一部とはいっても後楽園球場の5倍くらいの面積があって、氷で作られた国会議事堂や自由の女神などが、100体以上展示される。夜にはライトアップされ、花火が打ち上げられる釧路の冬の一大行事である。


 倫太郎と登美子と凛々子の三人も、この氷祭りを楽しんでいた。

 子ども向けのアトラクションに、スラロームスライダーという氷で作られた滑り台があって、順番を待つ子どもたちの行列ができていた。

 ようやく凛々子の番が来て、約50センチくらいの半円形のチューブの中を滑り下りてくると凛々子は怖さのあまり「キャーッ」と悲鳴を上げていた。

 下で待つ親たちはカメラを構えて、滑り降りて来る子どもを撮っていた。


 倫太郎はそんな親たちの中にいた一人の女性に目が留まった。

 そうだ、あの人だ。函館で別れた房子に間違いない。

 見たところ、夫らしい人は見あたらない。母と子どもだけで来ているようだ。

 子どもは男の子で、歳は凛々子より少し上くらいに見える。房子がもしお腹の子をおろさなかったとすれば、あの男の子は自分の子どもかも知れない。

 そう思って見ているうちに、二人の姿は人込みの中に見えなくなった。


 倫太郎はもう、彫刻や花火どころではなくなった。

 家に帰ってからも気になって、一睡もできなかった。それからもあの人と、一緒にいた男の子が気になって、仕事にも手が付かなくなってしまった。


一か月後、凛々子の小学校の卒業式があった。妻の登美子のママ友の可乃子の子どもも卒業した。数日後、可乃子が持って来た卒業アルバムに、あのとき見た人の子どもが写っていた。


 可乃子と妻の登美子はママ友なので、可乃子に聞けばあの人のことが分かるかも知れない。だが、倫太郎の浮気を過去のこととして、忘れたように振舞っている登美子のことを考えると、可乃子にあの人のことを聞く勇気が湧いてこなかった。


どう対処していいものやら見当もつかないまま1年が過ぎて、また氷祭りの季節がやってきた。

ある日、代議士の秘書と名乗る女性から電話があった。

「もしもし、河村さんですか、私は代議士の加地良一の秘書をしている者です。

お話したいことがありますので、会っていただけませんか」と言われて、翌日その女性と会うことになった。



















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