第150話 赫灼・白黒終焉一蹴
「なんだ、その姿は……」
「知ってるか? ヒーローってのは最終形態があるんだぜ?」
困惑したような顔をするヴァーゲに、俺は得意げに言ってやる。
最終回の土壇場で最後の力に覚醒したり、途中から出てきている最終形態のまま
そういうもんなんだよ、ヒーローってのは。まぁ、借り物の力ってのが、格好付かないところだけどな。
それでも、ようやく同じ土俵に立てた。
「行くぞヴァーゲ。これで最後だ」
「……ああ、最後だ。お前を倒して、私は世界を一つにする」
直後、俺は上空に飛び上がる。
「――ッ!?」
軽く地面を蹴った。そう思ったのに、気付けばヴァーゲの目前まで到達していた。
「――なっ!?」
驚愕するヴァーゲ。安心しろ、驚いてるのは俺も同じだ。
けど、驚いてる場合じゃない。
「おらぁッ!!」
赤、黒、白の三色が混じり合った炎を拳に纏い、ヴァーゲに振り抜く。
「ぐっ!!」
呻き声を上げながら、ヴァーゲは俺の拳を
そう、避けたのだ。今まで一度だって避ける事をしなかったヴァーゲが避けた。相当の力の抵抗も無かった。
俺の拳は、ヴァーゲに届く。
俺は、ヴァーゲと戦える。
「行くぞッ!!」
「調子に……乗るなぁッ!!」
ヴァーゲが俺に肉薄する。
こいつの攻撃を食らった事があるから分かる。こいつは、肉弾戦も得意だ。それこそ、レーヴェとも張り合えるくらい。
けど、残念だったな、ヴァーゲ。俺の方が、肉弾戦は得意なんだよ。
ヴァーゲの拳を弾き、
が、それをヴァーゲは紙一重で避け、蹴りを放つ。
蹴りを腕で防ぎ、お返しとばかりに蹴り返す。
蹴りを避け、ヴァーゲは背後に跳ぶ。
背後に跳んだヴァーゲに魔弾が迫る。いや、違う。ヴァーゲが魔弾の射線上に入ったんだ。
魔弾はヴァーゲに直撃する事は無く、見えない壁に阻まれる。
「相当も使いようだ」
くいっと手を捻る。
それだけ、相当の壁に阻まれた魔弾が不自然に軌道を変えて俺の方に飛来する。
「その程度!!」
迫る魔弾を真正面から受ける。
魔弾は俺に直撃する前に炎の熱に散らされる。
「チッ! 忌々しい鎧だ!!」
「ああ、頼もしい
ヴァーゲに肉薄し、無理矢理に肉弾戦に持ち込む。
「近距離なら勝てると思うなよ!!」
素早く、力強い打撃の応酬。
かつて無い程、俺の神経は研ぎ澄まされ、身体の底から力が漲っているというのに、ヴァーゲはそんな俺と互角に渡り合っている。
ああ、認めるよ。お前は強い。相当の力なんて無くたって、お前は十分強いよ。
だからこそ、だからこそ俺はお前が許せないんだ。
「そんなに強いくせに、なんで誰かを傷付ける事を選んだんだ!! お前ならもっと選べたはずだろ!!」
「何も知らぬくせに、知ったような口をきくな!!」
ヴァーゲの攻撃が激しさを増す。
激しく移動をしながら、ヴァーゲはわざと攻撃の前に移動して相当の力を使ってその攻撃を俺に向けて逸らしてくる。
大抵の攻撃は炎の熱で散らせるけれど、剣など物理的な攻撃は防ぐか避けるかしなければいけない。
その隙を突いて、ヴァーゲは鋭い攻撃を仕掛けてくる。
相当の力を熟知している。相当が相手に通じない事もちゃんと考えている。
やはり、ヴァーゲは相当という力に胡坐をかいて強者ぶっている訳では無い。そんな浅はかな奴なら、相当が崩された時点で負けている。
明確な目的を持って、自分を鍛えて強さを手に入れている。
だから、少し
「世界が均一になれば、誰かがお前の気持ちを分かってくれるとでも思ってんのか?」
「――ッ!! 黙れッ!!」
瞬時に激昂し、ヴァーゲの攻撃に勢いが増す。
やっぱり、そうだ。
こいつは、悪意なんざ持ってない。悪意なんて持てないのかもしれないけど、こいつの動機は悪意なんかじゃない。
「お前、寂しいのか?」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええッ!!」
更に苛烈に、更に攻勢に。
これは多分、ヴァーゲにとって触れられたくないところなんだろう。
なら、なおさらだ。なおさら俺はこいつに言ってやらなくちゃいけない。
「なら、誰かに言えよ!! こんな事しないで、誰かに相談してみりゃ良いじゃねぇか!! 誰かに迷惑かけて手に入れたもんに何の価値があるんだよ!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!! 貴様に何が分かる!! 感情が抑制される私の気持ちの何が!! 気持ちが高ぶらない!! 気持ちが落ち込まない!! その虚しさが貴様に分かるか!? 今だってそうだ!! 私はこうして怒ったふりしか出来ない!! 怒りという感情も、時が進むごとに抑制される!! その虚しさが貴様に分かるというのか!?」
「分からない!! 俺は、お前の気持ちを少しだって理解できない!! 今俺はこうしてお前に怒ってる!! ふりなんかじゃない!! 本心から、俺の大切な人達を傷付けたお前に怒ってる!! そんな俺に、お前は分かるだなんて言ってほしく無いだろう!!」
俺だけじゃない。ヴァーゲの気持ちを理解できるのは、同じ苦しみを味わった者だけだ。
ファントムに感情を奪われた人達ならヴァーゲの気持ちも分かるかもしれないけれど、俺には無理だ。
けど、やって良い事と悪い事の区別くらいつく。
「そうさ!! お前達は誰一人だって私を理解できない!! 理解できないなら、理解させるしかないだろ!!」
「分からないから押し付けようってのか!! どうにか出来る方法を探さないで、相手を害する事を選べば、理解されてもお前を受け入れようだなんて奴は出てこないんだぞ!!」
「受け入れられずとも、独りにならないならそれでいい!! 貴様に分かるか!? 世界に一人だけという恐ろしさが!! 誰にも理解されず、誰に共感する事も出来ず、誰の心にも寄り添う事が出来ない!! 心を持つ者ならば出来て当たり前の事が私には出来ないのだ!! その虚しさが、貴様などに分かるというのか!!」
悲痛なヴァーゲの叫び。
怒れていない訳じゃない。怒れているけれど、それを無理矢理に抑制される。
感情が変化するたびに、それを消される恐怖を俺は知らない。
世界から弾き出されて、独りぼっちになる孤独を俺は知らない。
けど、どうしようもない感情に振り回されて、世界から弾き出されて孤独になった人なら知ってる。
ずっと思ってた。言ってくれれば、頼ってくれれば、俺はあんたのためになんでもしたって。
傍に居て慰めて、寄り添って共に歩いて、喜びも悲しみも分かち合いたかった。
誰かを孤独にする事の罪深さを、俺は知っている。
「分からない。けどな、傍には居てやれる。友達にだってなれる。悩みを解決するために動く事だって出来る。共感なんて出来ねぇよ。そんな軽々しく分かるだなんて言えねぇよ」
そんな事言われたら、それこそムカつくだろう。何も知らないくせに、分かったような口をきくなって思うだろう。
「けど、何も知らなきゃ、何も出来ねぇよ!! 分からせるんじゃなくて、教えろよ!! 最後の選択肢を最初に取るなよ!! 俺は、俺達はまだお前の事を少しだって知らないんだよ!!」
「――っ」
「知らない事を理解なんて出来るかよ!! そんな奴、誰一人としていやしねぇんだよ!! 触れ合って、話し合って、そうやって俺達は繋がってくんだよ!!」
握りしめた拳を緩め、振り抜かずに、手のひらを差し出す。
「こんな事、もうやめよう。独りが嫌なら、こんな方法を選ぶな。これじゃあ、お前は余計独りになる」
ヴァーゲは動きを止め、俺の手を見る。
しかし、それは数秒の事で、ヴァーゲは自虐的に笑みを浮かべた。
「……こんなことして、貴様の手を取れる訳がないだろ。それに、もうあの装置は止められない。……なら、私は私のした事に責任を取る。私は、私を貫き通す。例えその先に何もなくとも、もう消えてしまっているとしても、私を動かした確かな
言い切れば、瞬時にヴァーゲは俺に肉薄してきた。
「馬鹿野郎が……っ!!」
ヴァーゲの振るった拳と真正面から打ち合う。
「なら俺だってもう止まらねぇからな!! 絶対にお前を倒して、こんな事も終わらせてやる!!」
「やってみろ!! 貴様に出来るものならな!!」
「出来るに決まってんだろ!!」
幾度となく打ち合う。
その拳に
ヴァーゲだって分かってるはずだ。このまま行けば、勝つのは俺だ。
ヴァーゲには決定打が無い。最強の力を誇る相当も失われた。あるのは自前の戦闘能力だけだ。
そう、あの日と同じだ。ヴァーゲも緋姉と同じなのだ。その時芽生えた感情に振り回されて、止まる事が出来なくなってしまっているだけなのだ。
心のどこかで、本当は止まりたいと願ってるはずだ。じゃなくちゃ、あんな自虐的な笑みなんて浮かべやしないだろう。
「止めてやる。お前も、お前の計画も!!」
振り抜かれた拳を掴む。
「――っ!!」
「っらぁッ!!」
掴んだまま、ヴァーゲを思い切り投げ飛ばす。
「行くぞッ!!」
背中から白と黒の炎が溢れる。
それはまるで翼のように広がる。
炎の翼が一つ羽ばたく。
それだけで、俺の身体は恐ろしい速度でヴァーゲへと迫る。
右足に赫灼の炎が溜まり、激しく燃え上がる。
全てを置き去りにして、俺は加速する。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
――
赫灼に燃え上がる足が、ヴァーゲに突き刺さる。
「がぁッ!?」
「墜ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
衝撃波を生み、全てを吹き飛ばし、ヴァーゲは地に落ちる。
数十メートルも地面を抉り、ようやくヴァーゲは止まる。
死んではいないだろう。骨の何本かは確実に折っているけれど。
「はぁっ……はぁっ……」
俺はと言えば、息を切らせながら地面に降りる。
流石に、もう限界だ。
維持していた
「はぁっ……畜生……大見えきって、敵の大将倒しただけかよ……」
ついにはノーマルフォルムも解け、俺はそのまま地面に仰向けに倒れ込む。
「……けど、美味しいとこは取っておいたぜ……」
上空から落ちてくるあいつに向けて、俺は笑みを浮かべて言う。
「最後は、お前が決めろよ、黒奈。お前なら、相当の力なんて無くたって、できんだろ……?」
なぁ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます