第115話 それぞれ、バーサス!

 暗黒十二星座ダークネストゥエルブが一人、乙女座のユングフラウ。自らをそう名乗り、先程の装いとは変わりドレス姿になった戦さん。


 戦さんは魔力の反応があり、その魔力の質がファントムの魔力の質と同じ系統であった。


「戦さん……?」


「違う。私はユングフラウ。戦乙女は仮の姿に過ぎないわ」


 冷徹な目をして、冷たい言葉でそう返す戦さん。いや、彼女の言う通りならば、彼女は俺のクラスメイトの戦乙女ではなく、暗黒十二星座ダークネストゥエルブの一人、ユングフラウなのだろう。


 なんで、とか。どうして、とか。疑問は一杯ある。でもそんな疑問が出ないくらいには、俺は混乱していて、その混乱を上回るくらいに、やっぱり俺は怒ってた。


「そう。ユングフラウ……なら、今はそう呼ばせてもらうよ。メポル!」


「はいメポ!」


 キラキラとした光とともに現れたメポルからブレスレットを受け取り、腕に嵌める。


 ユングフラウの出現で皆逃げ出している。だから、ここで俺を見る者は戦さん以外に居ない。


「マジカルフラワー・ブルーミング!!」


 黒色の光が俺を包み込み、俺を魔法少女・マジカルフラワー・ブラックローズへと変身させる。


「ふん……意外ね。あんたの事だから、クラスメイトと戦えないとか言うと思ってたわ」


「多分、もっと違う形で正体を明かしてくれたら、私はそう言ってたと思う」


「はっ! お優しい事。じゃあ何? なんで今は戦おうと思ったわけ?」


 戦おうとした理由は一つだけ。でも、俺にはそれだけで十分だ。


「君が、深紅を馬鹿にしたからだよ」


「はぁ? 私が和泉くんを馬鹿にするわけないじゃない」


「したよ。さっき言ったよね。深紅が俺の顔を立てるために君のデートを受けたった」


「……ええ、言ったわよ。だって、その通りでしょう? 和泉くんがあんたの関与無しに、私の誘いを受けてくれる訳が無いんだから」


「それだよ」


「は?」


「それが、深紅を馬鹿にしてるって言ってるんだよ」


 俺の言葉に、訳が分からないといった表情かおをする戦さん。


「深紅が私の顔を立てて君とデートをする? そんな訳ないでしょう!!


 深紅は決してそんな理由だけでデートを受けるような奴じゃない。ちゃんと相手を見て、自分が一緒に行きたいと思った人と、深紅はデートをする。デートだけじゃない。遊びに行くのだってそうだ。誰かが一緒にいるからとか、誰かの顔を立てるためとか、そんな相手に対して失礼な理由で深紅は誰かと一緒に行動を共にはしない。


 それを、幼馴染である俺は良く知っている。


 お眼鏡にかなったとか、そんな偉そうなことを言うつもりは無い。深紅がただ一緒にデートに行きたいと思った。ただそれだけの事なんだ。


「深紅は、誰かの顔を立てるために人とデートをするような失礼な人じゃない。自分に告白をしてくれた人、自分をデートに誘ってくれた人、その人達の事をちゃんと考えて答えを出すの! 今日深紅がここに来たのは、君と向き合って出した答えなの!」


 深紅が好きならなんで分からないの? 深紅がそんないい加減な人じゃなくて、人と向き合ってる人だって、なんで分からないの?


「だから、深紅が私の顔を立てるために君とデートをしてるって言われて、私はすっごく怒ってる」


 構えを取る。戦わないと分からないなら、戦った後でこんこんと説明し続けてあげる。


「来なよ。戦うなら、とことんやりましょう」


「――っ!! 偉っそうに!!」


 ユングフラウがばっと腕を広げる。直後、幾つもの魔方陣がユングフラウの前に現れる。


「良いわよ! やってやろうじゃない!! あんたを倒して、私が和泉くんの一番になってやるわよ!!」


 睨みあう両者。合図は無い。でも、行動に出たのは二人とも同じタイミングだった。


「穿てっ!!」


 ユングフラウの魔方陣から、幾つもの魔力で形成された弾が放たれる。


 俺はそれを一歩も動かずに迎え撃つ。


 拳を握りしめ、魔力を込める。


 迫りくる魔力の弾。それを、拳の連打で迎え撃つ。一つたりとも打ち漏らす事無く拳で打ち消す。


「なっ!?」


「ふ――――――っ!!」


 連打の後、深く息を吐く。


 全て打ち落とされたユングフラウが驚愕の表情を浮かべる。


「……あんた、魔法少女のくせに脳筋なの?」


「お望みとあれば、魔法戦もしてあげるよ。その必要があれば、だけど」


「――っ! 言ってくれるじゃない!!」


 魔方陣の数が先程よりも増える。でも、問題ない。打ち落とす。全部、この拳で打ち落とす。


「全力全開で行くわよ!!」


「来なよ! 全部打ち落としてあげるから!!」



 〇 〇 〇



「このっ、ちょこまかとっ、避けるんじゃっ、ないのじゃ!!」


 蠍の尻尾を何度も突き出してくるスコルピオン。


 その速度には目を見張るものがあるけれど、来る場所さえ分かっていれば避けるのは容易い。


 さて、どうするか……あまり派手には戦えないしな……。


「ああ、もうっ! 面倒じゃ! 儂は肉弾戦が苦手なのじゃあ!!」


 ならなんで肉弾戦を選んだんだ……。


「かもんっ、我が従僕ぺっと!!」


 ぱちんっと指を鳴らすスコルピオン。その直後、上空に巨大な魔方陣が現れる。


 巨大な魔方陣から、何かが落ち、ずしんっと重量感のある音が上がる。


「ふふふっ! どうじゃ、我が従僕ぺっとは!」


 それはB級映画にでも出てきそうな程巨大な蠍だった。怪しげな薬で巨大化した蜘蛛が集団となって襲い掛かってくるっていう映画があったけど、それに近いと思う。


「おーよしよし! 今日も愛いのう~」


 すりすりと甘えるように頭をスコルピオンにこすりつける巨大蠍。スコルピオンの方も甘えられて満更でもないのか、よしよしと巨大蠍の頭を撫でてやっている。


「ふふふっ! 儂の従僕ぺっと、シフォンの巨躯に恐れおののいたかクリムゾンフレア!!」


 腰に手を当てて胸を張ってどや顔をするスコルピオン。


 いや、正直別段恐れたりおののいたりはしないけど……。


「ちょっと面倒だなとは思う」


「ちょっと!? 儂のシフォンをちょっとじゃと!?」


「あと名前は可愛いと思う」


「じゃろう! 儂もそう思う!」


 驚いた顔をした後に名前を褒めればふふんと得意げに胸を張るスコルピオン。


 ……どうしよう、無邪気だから少しだけやり辛い。


 けど、相手に戦う意志がある以上、戦うしかない。


 握りしめた拳を緩めずに、俺はスコルピオンと巨大蠍……シフォンを警戒する。


「ふっ、儂のネーミングセンスを褒めた事は評価する。が、今は敵同士! 行くのじゃシフォン! アシッドニードル!!」


 ――キシィィィィィィィィ!!


 どこから出しているのか良く分からない声を上げて、シフォンが尻尾の針の先から刺を幾つも飛ばしてくる。


 |酸(アシッド)って言うくらいだから、これをくらうと溶けてしまうのだろう。まぁ、問題無いが。


 手足に炎を纏い、迫りくる酸の針アシッドニードルを迎撃する。毒に溶かされる前に、針に突き刺される前に、全部燃やしてしまえば良いのだ。


「むむっ! 御主中々やるではないか! じゃが、こちらも負けておらんぞ! シフォン、ポイズンシザースじゃ!」


 キシキシと返事をし、巨大なハサミを威嚇するように持ち上げながら、シフォンが俺に迫る。


 そして、俺の前に到達すると、シフォンはぬめりけのあるハサミを振るってくる。そのぬめり、絶対毒だろ。


 毒を食らうのは嫌なので、炎を纏った足でハサミを蹴り上げる。あっ、ごめん。ちょっとヒビ入った。


 片方を弾かれても、負けじともう一方のハサミを振るってくるシフォン。それも無慈悲に蹴り上げる。あっ、ごめん。やっぱりヒビ入った。


 ていうか、あんまし毒の塗られたハサミを振り回すな。周りに毒が飛び散るだろうが。


 両方のハサミを持ち上げ、両方同時に落としてくるシフォン。


 そのハサミを両手でがっしりと掴む。


「ちょっと消毒するぞ?」


 宣言し、俺は両手から炎を上げる。


 ――キシィィィィィィ!?


 目から涙を流しながら、シフォンは慌てて俺から離れて、主であるスコルピオンの元へと駆け寄る。


「ああっ!? かわいそうにのうシフォン! 熱かったじゃろう?」


 ――キシィッ!


「おうおう、そうじゃのう! 貴様! シフォンを火で|炙(あぶ)るとはどういう了見じゃ! 動物虐待じゃぞ!?」


「えぇ……」


 攻撃を仕掛けておいて動物虐待も何も無いだろうに。そもそも、ペットじゃなくて自分で戦えば良いだろうに。


「もうよい! シフォン、下がっておるのじゃ! 後は儂に任せい!」


 ――キ、キシィッ?


「大丈夫じゃ! 儂が御主の仇を取ってやるぞ!」


 ――キシィッ!


「うむ! 儂、頑張るぞ!」


 俺にはなんて言っているのかなんてまったく分からないけれど、おそらく頑張ってくれなんて事を言っているのだろう。というか、よく意思疎通が出来るな。


 俺が密かに感心していると、スコルピオンはビシッと俺に指を突きつけてくる。


「勝負じゃクリムゾンフレア! 儂の必殺、爆砕地獄針ばくさいじごくばりを食らえい!」


「途端に物騒だなおい」


 今までポイズンとかアシッドだったじゃないか。なんで爆砕と地獄が出てくるんだ。


「食らえい! 爆砕地獄針!!」


 叫びながら、スコルピオンが迫る。そんなに速くはないけれど、なんか嫌な予感がする。


 スコルピオンの右手。一本だけ突き出された人差し指に魔力が収束する。


「てりゃ――――――――っ!!」


 魔力の籠った人差し指が突き出される。


 白く、細い指。けれど、この指に脅威となる魔力が込められているのが分かる。


 避けるか? いや、避けられ・・・・ないな・・・


 人差し指が俺の胸部に突き刺さる。


 直後、胸部を爆音と共に強烈な衝撃が襲う。


 ふわり、だなんて生易しい勢いではなく、逆バンジージャンプをさせられたかのように身体が浮き上がる。


 爆発の流れそのままに俺は後ろに吹き飛ばされる。


 しばらく空中を飛び、地面に叩きつけられ――


「ふははっ! どうじゃ儂の爆砕地獄針の――」


 ――そうに、なる前に背中から炎を出して威力を殺す。


 安定した足取りで地面に降り立ち、煤けた・・・外装を軽く手で払う。


「――い、りょく……は……」


 得意げに高笑いをしていたスコルピオンが、俺の様子を見て言葉を失くす。


「いやぁ、効いたよ。ちょっと鼻血・・出た」


「鼻……血……?」


 儂の、爆砕地獄針が? と愕然とするスコルピオン。


 そんなスコルピオンに、俺は容赦なく言い放つ。


「準備運動はここまでだ。こっから本気で行くぞ?」


「ひ、ひぇ……」


 怯えた顔をするスコルピオンに、俺はニコリと微笑む。まぁ、顔は相手に見えない訳だけれども。

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