第114話 ドキドキデート大作戦5
ニャンニャンパラダイスのとあるベンチ二つに、俺達五人は座っていた。
「で、なんでお前がここにいるんだ? まさか、俺達の事を監視してたわけじゃないよな?」
少しだけ責めるような口調の深紅。自分達が付けられていたとあれば、それは怒りたくもなるだろう。
「えっと……」
俺は深紅の隣に座る戦さんを見る。
戦さんは観念したような顔でこくりと一つ頷いた。
言っていいって事、だよな……?
俺は戦さんから視線を戻すと、深紅と向き直る。
「実はね――」
俺は、戦さんにデートのサポートをしてほしいと言われた事を説明した。そして、サポートとして呼ばれた獅子王さんと獅子王さんのサポートとして美針ちゃんが来た事を説明した。もちろん、ずっと戦さんの相談に乗っていた事や、一番最初の出会いの事などは省いたけれど。
俺が全部説明すると、深紅ななるほどと納得したように頷いた。
「悪意が無いのは分かった。悪かったな」
「え、何が?」
謝ってきた深紅に俺は思わず聞き返してしまう。だって、謝らなくちゃいけないのは俺の方なのだから。
「いや、手ぇ強く握り過ぎたからさ。お前が冷やかしでこんな事するような奴じゃないってのは分かってたつもりだったんだが、ちょっとカッとなった」
「ううん、俺の方こそごめん。深紅にとっては、あんまり気分の良い事じゃ無かったよね」
「そ、それを言うなら、私もごめんなさい! 和泉くんに黙って、こんな事しちゃって……」
戦さんも慌てて頭を下げる。
「ああ、いや。戦さん、凄く緊張してたみたいだし、仕方ないと思うよ。その事を怒るつもりは全然ない。黒奈も、戦さんのためを思って行動してたみたいだし」
穏やかに笑って言う深紅。経験上、こうやって笑っていても深紅は怒っている時があるけれど、今はまったく怒ってないみたいだ。少しだけほっとする。
「そういえば、お前途中からいなくなってたけど、はぐれたのか?」
「ううん。三人で遊んでた」
「お前ら……」
呆れたような顔をする深紅。だって、完全に二人きりにした方がデートっぽいって獅子王さんが言ってたんだもん……。
「まぁいいや。お前らに悪意が無い事は分かったし、俺達はもう行くよ」
「え、良いの?」
深紅の言葉に、戦さんは驚いたように深紅を見る。
戦さんとしては、深紅に対して隠し事をしていたのを気にしているようだけれど、深紅としてはもう終わった事。それに、悪気が無かったし害も無かったし、誰の迷惑になっている訳でもないので、もう気にしていないだろう。
「良いも悪いも無いよ。俺はもう気にしてないし。それに、せっかくのデートなんだから最後まで楽しまなくちゃだろ?」
にっと優しく微笑む深紅。そして、座ってる戦さんに手を差し伸べる。
「ほら、行こう」
「う、うん……!」
戦さんは嬉しそうに深紅の手を取る。
深紅は優しく戦さんの手を引くと、俺の方を見る。
「黒奈、お前も、こっちの事は気にしなくて良いからちゃんと楽しめよ。ここに来るの、結構久しぶりだろ? ……まぁ、その様子を見るに、目一杯楽しんでるみたいだけどな」
「うん、だいぶ楽しんでる」
「そいつは良かった。じゃあな」
「うん」
気が抜けたような笑みを浮かべ、深紅は戦さんの手を引いてアトラクションの方へと向かおうとする。
けれど、何故か戦さんは深紅の手から自分の手を離し、愕然とした顔で深紅を見ていた。
「? 戦さん?」
深紅が呼び掛けても、戦さんは愕然とした表情のままだ。
「……ねぇ、和泉くん」
「ん、なに?」
「なんで私とデートしようって思ったの?」
唐突な戦さんの質問。それに、深紅は困惑したような顔をするけれど、深紅はすぐに笑みを作ると穏やかな声音で言う。
「戦さんが一生懸命に頑張って誘ってくれたからだよ」
「……そう。ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「え、うん」
俯いてそう言った戦さんは、そのまま俺の横を通り過ぎる――事はなく、俺の手を引いて歩き出した。
「え、戦さん!?」
急な事だったので体勢を崩しながらも、なんとか転ばずにすむ。
「いいから来て」
「で、でも……」
「いいから黙ってついてきて!!」
声を荒げ、俺を睨む戦さん。
俺を含めた全員が困惑するけれど、俺は困惑のまま戦さんに着いて行く。
戦さんに手を引かれるまま、俺達は
脚を止めた戦さんに、俺は困惑のまま問いかける。
「どうしたの、戦さん?」
「……」
無言のまま、戦さんは俺の方に向き直る。
「さっき、なんで私のデートの誘いを受けてくれたかって、和泉くんに聞いたでしょ?」
「う、うん……」
「あれで、和泉くんが私に脈が無いのが分かっちゃった」
「どうして?」
「……あんたよ」
「俺?」
俺がなんだというのだ? あ、俺達が深紅にバレてしまった事を怒ってるのだろうか? でも、深紅は気にしてないって言ってたし……。
「……和泉くんがどうして私のデートの誘いを受けてくれたか、あんたに分かる?」
「それは、戦さんが一生懸命に深紅を誘ったからで……」
「違う! 違うわよ……あんたよ、あんた。あんたが関わってるって分かったから、和泉くんは私のデートの誘いを受けてくれたのよ」
悔しそうに言う戦さん。
その言葉に、俺は――――心底、腹が立った。
けれど、俺が何かを言う前に戦さんはスマホを取り出して誰かに電話をかけた。
「美針。私の言う事聞いてくれたら、あんたの大好きなブラックローズの秘密、教えてあげる」
「――っ! 戦さん、何を!」
俺が戦さんのスマホを取り上げるよりも先に、戦さんは言い切る。
「美針……いいえ、
直後、戦さんの身体を魔力の奔流が包み込む。
「――っ!?」
魔力に押され、俺は後方へと吹き飛ばされる。
ごろごろと転がりながらも立ち上がり、戦さんの方を見やればそこには先程までの戦さんの姿は無く、代わりに可愛らしいドレスに身を包んだ一人の少女が立っていた。
「私は
〇 〇 〇
怒ったような悲しむような、そんな表情のまま黒奈を連れて行ってしまった戦さん。俺が何か気に障るような事をしたのだろうかと思ったけれど、特に思い当たる節も無い。自分で言うのもなんだが、人当たりの良い対応をしていたつもりだし……。
「あら? 乙女先輩からですわ」
しばらくして、蛛形さんのスマホに戦さんからの連絡が入る。
「――っ! なんだか良く分かりませんが、分かりましたわ。引き受けますわ!」
蛛形さんが嬉しそうに頷く。戦さん、怒ってないのか? いったい何を話してるんだ?
「ふっ、その程度、お安い御用ですわ!」
一つ不敵に笑みを浮かべてから、蛛形さんは戦さんとの通話を切った。
そして、不敵な笑みを浮かべたまま俺の方を見る。
「私としてはあまり本意ではありませんが、愛しのあの方の秘密とあれば素直に動かざるを得ませんわ」
「いったい何の話をしているんだ? それより、戦さんはなんて?」
「ふふっ、乙女先輩は貴方を倒して自分の元へ連れてくるようにと仰いました。ですので、申し訳ありませんがここで倒させていただきますわ」
嫌な予感がした。その直後、魔力の奔流が蛛形さんを包み込む。
自ら後ろに飛んで距離を取り、魔力の衝撃を緩和する。背後に飛びながらベルトを装着し、叫ぶ。
「イグニッション!!」
直後、紅蓮の炎が俺を包み込み俺をクリムゾンフレアへと変身させる。
「全員避難するんだ! 急いで!!」
周囲の一般人に避難するように声をかける。あいにくと避難誘導をする時間は無いけれど、それはここのスタッフがやってくれるだろう。
俺は目の前の
魔力が晴れ、現れたのは赤毛を後頭部に一本で縛り、フリル過多の改造和服を着た少女であった。
「くっふっふっ! 儂は
不敵に笑うスコルピオン。
蛛形さん、ファントムだったのか……! てことは、蛛形さんに俺を連れてくるように頼んだ戦さんも、蛛形さんの後ろで平然としている獅子王ってやつも……!!
「スコルピオン、俺も戦うか?」
「その必要はないぞよ! 御主が手を出して、儂の成果にならないと判断されるのも嫌じゃからの! あんの性悪の事じゃ、成果不十分とみなしてもおかしくあるまい!」
「では、俺は帰らせてもらう。もうここも十分楽しんだからな」
「御主、本当に楽しんでおったのか……」
「ああ。たまには、遊園地も良いものだな」
ふっと一つ笑みを浮かべた後、一瞬だけ俺を見てから獅子王はこの場を後にする。
正直二対一じゃなくて安心はしたけど、このスコルピオンだって安心はできない。ツィーゲやアクアリウス、そして桜ちゃんが戦ったヴィダーも相当な手練れだった。決して油断できる相手ではない。
「さて、儂の愛しのブラックローズのためじゃ。御主には大人しく捕縛されてもらわなくては困るんじゃ。あまり抵抗してくれるでないぞ?」
ブラックローズのため? それに、さっき愛しのあの方の秘密って言ってたよな? てことは、ブラックローズの秘密を戦さんが知ってるのか?
「……戦さんには、ちゃんと話を聞かないといけないみたいだな」
「話なら後でたっぷりとさせてやるわ。だから……さっさと捕まるのじゃ!!」
後頭部に一つで結ばれている髪が迫る。蠍の尻尾のような針が先端についており、その先には何やら液体が付着している――が、なんら問題は無い。
「んなっ!?」
こちらに迫る蠍の尻尾を片手で掴む。そして、
「あちゃちゃっ!?」
痛覚があるのか、慌てて尻尾を引っ込めるスコルピオンは、涙目になりながらふーふーと自身の尻尾に息を吹きかける。
「お、|女子(おなご)の髪になんて事をするのじゃ!!」
「戦いに男も女も関係ないだろ。俺は急いでるんだ、手早く終わらせるぞ」
手足に炎を纏う。
虫が炎に勝てると思うなよ?
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