第113話 ドキドキデート大作戦4

 戦さんのサポートを早々に止め、俺達は俺達でニャンニャンパラダイスのアトラクションを全力で楽しむ事に。


 様々なアトラクションを次々に制覇していく俺達は当初の目的などすっかり忘れて、ニャンニャンパラダイスを十分に満喫していた。


 俺や獅子王さんがアトラクションを選ぶ事は無く、美針ちゃんが行きたいと言ったところを回っていくのだけれど、やはり人気なテーマパークだけあって、どれも魅力的で面白い。


 獅子王さんはこういうの大丈夫なのかなと思ったけれど、穏やかな笑顔を浮かべていたので大丈夫そうだ。絶叫系に乗っている時に穏やかな笑みを浮かべているのは、ちょっとだけ場違いな感じがして笑ってしまったけれど。


 美針ちゃんは終始嬉しそうにはしゃいでいた。見ているこっちが微笑ましく思えるくらいのはしゃぎっぷりだ。


 俺も、久しぶりの遊園地という事もあり、目一杯楽しんだ。絶叫系に乗れば目一杯叫んだし、可愛いアトラクションに乗れば美針ちゃんと可愛いねぇと言ってはしゃいだし、シューティングゲーム系に乗れば俺と美針ちゃん対獅子王さんでどちらが多く点数を取れるか競い合って楽しんだ。


 そうして楽しんでいる間に、すっかりと日は登り切ってしまいお昼の時間になった。


「そろそろ昼にするか」


「賛成ですわ! お姉様、どこで食べましょう?」


「うーん、そうだねぇ……」


「ここなんか、良いんじゃないか?」


 獅子王さんが広げたパンフレットの食事エリアの一角を指差す。そこは、ニャンニャンバーガーと書かれていた。


 俺も以前来た時にニャンニャンバーガーを訪れた事がある。パンズとパテに猫耳がついている非常に可愛らしいハンバーガーを売っているところだ。


「良いですね。あ、美針ちゃんはここ行った事ある?」


「いいえ。ここに来たのも初めてですわ」


「じゃあ、このニャンニャンバーガーに行ってみようか。ハンバーガーが可愛いんだよ」


「お姉様がお勧めするのでしたら、是非とも行ってみたいですわ!」


「なら、ここにしよう。ネットの評価も高いみたいだからな」


「はい」


「分かりましたわ!」


 お昼の場所を決め、俺達はニャンニャンバーガーを目指して歩く。


 歩きながら、気になるアトラクションがあればパンフレット地図に丸を書いて後でお昼を食べ終わった後に行けるようにチェックする。


 そんな事をしながらニャンニャンバーガーに辿りつく。お昼時という事もありカウンターには行列が出来ていた。


「では並びましょうお姉様!」


「いや、二人は席を取っておいてくれ。俺が二人のところへ持って行こう」


「いえ、俺達も並びますよ。獅子王さん一人にお任せする訳にはいきませんから」


「気遣いは無用だ。君達は先に座って待っていてくれ。蛛形、彼女と一緒に先に休んでいてくれ」


「分かりましたわ! お姉様、行きましょう!」


「え、でも……」


「ここは殿方を立てる場面ですわ。さぁ、行きますしょう!」


「あ、うん……」


 俺も殿方なんだけどな……。


 けど、これ以上ここで話していても邪魔になるだけか。申し訳ないけど、獅子王さんに任せよう。


「それじゃあ、獅子王さんお願いします」


「ああ。それで、二人は何を食べるんだ?」


「俺はチーズバーガーセットで」


「では私も同じものを!」


「了解した」


「すみません。それじゃあお願いします」


「お願いしますわー!」


「ああ」


 注文を獅子王さんに任せて、俺達は店内の空いている席に座る。


 窓際が空いていたので、その席に座る。


 二人でアトラクションの事を話しながら待っていると、視界の端で獅子王さんが女性二人組に絡まれているのが見える。


 どうやら獅子王さんはその二人にナンパされているようで、少しだけ困った顔をしている。


 俺の視線の先を美針ちゃんも追い、そこで獅子王さんがナンパされている事に気付く。


「またあの男は……一人になるとろくなことがありませんわね」


「まぁ、獅子王さんイケメンだからね。仕方ないよ」


「はぁ……仕方ありませんわ。私が行ってまいりますわ。黒奈お姉様はこちらでお待ちください」


「いや、俺が行くよ。美針ちゃんはここで待ってて」


「いえ、私が行きますわ! 黒奈お姉様を煩わせる程の事ではありませんわ!」


「ううん。年下の女の子に任せるほど、俺も落ちぶれてるつもりは無いよ。美針ちゃんは良い子に待ってて。ね?」


 立ち上がりつつ、ぽんぽんとカチューシャがずれないように頭を撫でてから獅子王さんの元へ向かう。


「じゃあ、せめて一つだけ! アトラクション一つだけ一緒に乗ってください!」


「お願いします! 思い出作りだと思って!」


「いや、すまない。連れを待てせてるんだ。そろそろ戻らなければ」


「じゃあそのお連れさんも一緒で良いので!」


「皆で一緒に楽しむと思って!」


 引き下がる事なく、ぐいぐいと獅子王さんに食いついて行くナンパ少女達。


 まぁ、獅子王さん、普段見る事も出来ないようなくらいのイケメンだし、引き下がりたくない気持ちは分かる。


「獅子王さん」


 俺はナンパされている獅子王さんに声をかける。


「如月さん」


 俺に気付いた獅子王さんが申し訳なさそうな顔をする。


「美針ちゃんも待ってますよ。早く行きましょう」


 獅子王さんが二つ持っている内の一つのお盆を自然な動作で受け取る。


 こういう時は堂々としているのが一番良い。堂々と、胸を張って、まるで臆する事のないように自信に満ちた表情で。多分、輝夜さんならこうする。


 ちらりと、視線を二人に向け、余裕ありげに笑みを浮かべる。


「ごめんなさい。彼は今日、俺達の相手で手一杯なんだ。さ、行きましょう獅子王さん」


「あ、ああ……」


 獅子王さんは少しだけ動揺しながらも、俺の後に続く。


 女性二人は呆然と俺を見ただけで、それ以上迫ってくる事は無かった。


 席に着いてから、ふぅと一つ息を吐く。


 はぁ……緊張した……。


「すまない。俺のせいで手間をかけさせた」


「いえ、獅子王さんは悪くないですよ。タイミングとかが悪かっただけです」


「いーえ、獅子王さんが悪いですわ! 魅力的な淑女レディ二人と遊園地に来ているのにナンパされるだなんて!」


 ポテトが冷めてしまいますわ! と律義にいただきますを言った後にポテトを食べる美針ちゃん。


 そんな美針ちゃんを苦笑して見た後、獅子王さんは俺の方に視線を戻す。


「それにしても、先程は驚いた」


「……ナンパされるとは思ってなかったって事ですか?」


「いや、君の雰囲気ががらりと変わっていたからね。一瞬、本当に君なのか疑ってしまった」


「そう、ですか?」


「ああ。普段の君は柔らかい雰囲気をしているが、先程は堅く芯のある雰囲気をしていた。近寄り難くも憧れる様な、そんな雰囲気だ」


「何を言っているのかさっぱり分かりませんわ!」


「君も実際に目の前に立てば分かる。それほどまでに雰囲気が違った。女優なんか向いてるんじゃないのか?」


「お姉様が女優をやったら全ての賞を総なめですわね!」


「いや、それはどうだろう……」


 モデルとかはやった事あるけど、流石に女優となると未経験だ。輝夜さんはドラマや映画にも出てるけど、俺なんて魔法少女であることを除けばまったくの一般人だし。……ていうか、女優じゃないし。俳優だし。


 お喋りをしながら、俺もハンバーガーを食べる。猫耳がついており、とても愛らしい見た目をしている。


 写真を撮って輝夜さんや東雲さん、東堂さんに写真を送る。美針ちゃんや獅子王さんと一緒に回るのも楽しいけど、今度は輝夜さんとかとも一緒に来たい。まぁ、三人とも有名人だから、そこそこ変装しないといけないし、俺も東雲さんにからは女の子だと思われてるから、ブラックローズに変身しなくちゃいけないっていう手間があるけど。


 それでも、その手間があったとしても、皆と一緒に遊びたいとは思う。あ、アトリビュート・ファイブの五人と一緒に来るのも良さそうだ。


 少しだけハプニングがあったけれど、楽しいランチの時間を過ごし、俺達はニャンニャンバーガーを後にした。


「美味しかったですわ!」


「ああ。見た目も大変愛らしかったからな」


 美針ちゃんも獅子王さんも満足そうだ。良かった良かった。


「それじゃあ、来る途中で気になったアトラクションに乗ろうか」


「ああ。だが食べた後だ。最初は優しめの物に乗るとしよう」


「そうですね。美針ちゃんは何に乗りたい?」


「私はお姉様と一緒ならどれでも良いですわ!」


「んー……それじゃあ、獅子王さんはどれが良いですか?」


「俺もなんでも良いが、そう言ってしまうと決まらなそうだな。では、これに乗ろう」


 そう言って獅子王さんが指差したのは、ホラー系のアトラクション。ゴーストバスニャーズというアトラクションだ。


 幽霊となったゴースト猫とそれを対峙する幽霊退治専門の組織、ゴーストバスニャーズと一緒に戦う、といったコンセプトのアトラクションだ。


 スピードも出ないし、固定された銃で相手を打つだけなのでそんなに激しい運動もしない。


 腹ごなしには丁度良いかもしれない。


「分かりました。それじゃあこれにしましょう。美針ちゃんも良い?」


「はい!」


 美針ちゃんも乗り気なので、ゴーストバスニャーズに向かう事に。


 ゴーストバスニャーズにたどり着けば、そこそこの順番待ちの列があり、俺達はその最後尾に並ぼうとした――ところで、ちょうど同じタイミングで二人組が最後尾に並ぼうとしていた。


「あ、すみません」


「いえ、こちらこそ……って、黒奈?」


「え?」


 名前を呼ばれ、俺は驚いて相手の顔を見る。


 そこには、驚いたような顔をしている深紅と、恨みがましい視線を向けてくる戦さんの姿があった。


 あ、やばいと思ったけれど、時すでに遅し。


「驚いた。お前も来てたんだな。偶然だな」


「ああ、う――」


「なんて言うと思ったか? お前……いや、お前達、少し前まで俺達の事付けてただろ?」


「え”?」


 なぜバレている……!?


 少しだけ眉を寄せる深紅は、俺と、美針ちゃんと獅子王さんを見て、最後に戦さんに視線を向ける。


仕事柄・・・、視線には敏感なんだ。良い訳が通用すると思うなよ? 何を企んでるのか、きっちり説明してもらおうか」


 そう言った深紅は、がっしりと俺の腕を掴んだ。


 どうやら、俺は逃げられないらしい。

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