第5章 お姉様と王子様
第93話 二学期開始、不吉な予感!?
長いようで短かった夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。
始業式が終われば、後は教室でホームルームをして今日は解散だ。
ホームルームが始まるまで、俺達は夏休みの話題で盛り上がる。
「おい、臨海合宿にブラックローズと星空輝夜が来たって本当か!?」
「マジだって! 写真送ったろうが!」
「くっそぉ……俺も見たかった……!!」
「モデルの東雲雨音も来ってまじ!?」
「東雲雨音とブラックローズが撮影してたらしいぜ! そんでもって、ブラックローズと如月が従姉弟同士だとか……!」
耳が痛い……。
身から出た錆とは言え、まさかこんなに噂になるとは思わなかった。
噂話をしているクラスメイト達の視線が、俺に向けられる。がっつり見ている訳ではなく、そろっと見て俺の様子を窺っているようだ。
「なんとも言えない顔してんな」
「深紅……」
深紅は俺の前の席に座って苦笑を浮かべる。
「まぁ、ね……こんなに噂になるとは思わなかったから……」
「あん時も言ったろ? お前の影響力は結構大きいって。次からはもっと考えて行動しろ」
「はーい……」
深紅の言葉に、俺は少しだけ不貞腐れて返す。
「そんなしょげた顔すんなよ。二学期と言えば、楽しい行事も目白押しだろ? もっとテンション上げてけよ。今年は花蓮ちゃんと一緒に文化祭とかも回れるだろ」
「そっか……今年は花蓮が一緒なのか……」
「そうだよ。それに、星空さんも遊びに来るだろうし、俺以外に友達が出来たお前にとっても結構良いイベントになるんじゃないか?」
確かに、この学年になってから、深紅や碧以外の友人が増えた。桜ちゃんもそうだし、輝夜さんもそうだ。アトリビュート・ファイブの五人もそうだし、東雲さんも東堂さんもそうだ。
結構、交友関係が広がってきた。しかし、東雲さんは呼べるだろうか? 東雲さんと東堂さんは俺の事を女だと思ってるし……それに、モデルの仕事が忙しいだろう。
うん、そこは後で考えよう。
ともあれ、友達も増えた事だし、楽しみである。文化祭。
「体育祭に球技大会、それに、俺達は修学旅行があるのか」
「結構イベント多いね。修学旅行は京都だっけ?」
「ああ。修学旅行の定番だな」
「中学の時も行ったけど、お寺とか綺麗だったし、今から楽しみ」
「そうだな。しかし、修学旅行といえば班決めだが……」
言って、深紅ははぁと一つ溜息を吐く。
「中学の頃は大変だったな……」
「え、なんで?」
俺が尋ねれば、深紅はじろりと俺を睨む。そして、俺の頬を両手で掴むと、乱暴に伸ばしたりする。
「い、いひゃい……!」
「誰のせいだと思ってるんだ、お前は?」
「にゃ、にゃにが?」
「女子が居ると落ち着かないから男子だけで組もうと言ったは良いけど、人見知りを発揮して誰にも声かけられず、結局俺に全部丸投げしたの誰だ?」
「おれれふ……」
そういえばそうだった。中学の頃は男女混合で班を作る事が出来たんだけど、女子といると深紅が俺の話し相手になってくれないから、男子だけにしたかったんだ。
中学の頃は深紅以外に友達もいなかったし、せっかくの修学旅行で一人になるのも嫌だったから、男子だけの班を作ろうとしたんだった。
深紅は俺の頬から手を離すと、呆れた表情を隠さぬまま言う。
「それで、今年はどうだ? 多分、今年も男女混合だろうけど」
「大丈夫、だと思う……多分…………きっと……」
「言っとくけど、今年も碧は別のクラスだから、一緒の班にはなれないんだぞ?」
「うん……」
「で、お前俺以外に友達出来た? この学校で」
「桜ちゃん……」
「後は?」
「…………」
いない。少なくとも、クラスメイトにはいない。ていうか、桜ちゃんだけかもしれない。
「……今から友達って作れると思う?」
「まぁ、修学旅行まではまだ期間があるからな。体育祭とか球技大会、後は文化祭で仲を深めればなんとかなるだろう……多分」
「断言してくれないの!?」
「全部お前次第だからな。俺は断言できない」
「確かに……」
これは深紅の問題じゃなく、俺の問題だ。自分自身の事ならなんとなく分かる事もあるだろうけれど、俺の事は俺にしか分からない。
「まぁ、頑張れよ。手助けはしてやるから」
「うん、頑張ってみる」
ふんすと鼻息荒く頷く。
輝夜さんや東雲さんとも友達になれたのだ。クラスメイトと友達になる事の方が、ハードルは低いだろう。
それに、また深紅に迷惑をかける訳にもいかない。いや、深紅が全部やってくれたら楽なんだけど、それだと深紅の負担にもなるし、なにより俺が成長できない。……でも、深紅に丸投げすると楽なんだよなぁ。
中学の頃の修学旅行は、深紅が皆から行きたい場所を聞いて観光ルートを作ってくれた。その観光ルートがとてもスムーズでとても楽しかった。美味しい甘味を知っていたり、時折面白い豆知識を披露したりと、それはそれは楽しかった。
「……ルートは深紅が作ってくれるから、いっか」
「おい。今年こそは皆で考えるぞ。あれのせいで俺めっちゃ寝不足だったんだからな?」
「はーい」
不機嫌そうに睨む深紅に俺はとりあえず頷く。まぁ、予定を考えるのも旅の醍醐味だ。皆で楽しく考えるのも良いだろう。
その後、修学旅行の事や、文化祭の事を話していると、ホームルームの時間になった。
ホームルームでは簡単な注意事項や連絡事項だけ話してすぐに解散となった。
色々イベント事に思いを馳せていたけど、その前にちゃんと日常生活を送らないといけない。明日から授業があり、イベントまではその授業が続くのだ。それに、定期テストもある。あまりうかうかしてもいられない。
……でも、今日はお休みだ! 明日から始まる事は、明日から頑張ろう!
「深紅ー、かーえろ」
「おーう」
リュックを背負って深紅の元へ行く。深紅は鞄を掴んで立ち上がる。
深紅と一緒に帰る。いつもの事だ。けれど、今日は違った。
「ちょっといい、如月くん」
冷たい声音で声をかけられる。声をかけたのは、俺達のクラスの学級委員長である、
中々物々しい名前だけれど、本人はいたって普通の少女だ。
「どうしたの、戦さん?」
「ちょっと話があるの。出来れば、二人きりで」
言って、戦さんは深紅の方を見る。
「それじゃ、俺は下で待ってるぞ」
深紅は戦さんの意思を察したのか、俺の肩を叩いて教室から出て行ってしまう。
「ここじゃなんだから、行きましょうか」
「う、うん……」
頷き、歩き出す戦さんの後に着いて行く。
戦さんとはまともに話をした事が無いし、もっと言えばこれが初めての会話であるとも言える。
戦さんは、いわゆる文学少女と言った見た目の大人しそうな女の子だ。眼鏡に三つ編み、膝下までのスカートに、白のハイソックス。模範的な優等生といった見た目なので、学級委員長を務めていてもなんら疑問は無い。図書委員も似合いそうだと思う。
接点なんて今までなかったけど……いったいどうしたんだろう?
目的地であろうところへ向かう間も、戦さんは何も言わない。なんだか気まずい。
黙々と戦さんの後に着いて行くと、たどり着いたのは図書室だった。図書室には誰もおらず、司書の先生さえいなかった。
戦さんはきょろきょろと周囲を見渡して誰も居ない事を確認すると、図書室の奥の方へと歩いていく。
のこのこと俺も着いて行く。
図書室の奥までたどり着いてから気付く。ここはどこからも死角となっており、窓の外から見られる事も無ければ、図書室内に居る者にも見られる事は無い。わざわざ奥までくる人なら別だろうけど、ここには難しい本しか置いてないため、めったに人は来ないだろう。
え、いったい何が始まるの……? まさか、ここで殴られる……?
急に危機感を覚えるけれど、そんな俺の事などかまいもせずに戦さんは口を開く。
「この写真、見覚えある?」
そう言って、戦さんは俺に一枚の写真を見せてくる。
「……っ」
一瞬反応しそうになってしまうけれど、俺はなんとか堪える。
戦さんが見せてきた写真には俺、というよりも水着姿のブラックローズが写っていたのだ。黒のワンピースタイプの水着を着て、楽しそうに笑っているブラックローズ。
水着姿という事は、この間の撮影の時の写真だ。
「ぶ、ブラックローズの写真、だよね? 今話題になってるやつ」
「ええ、そうね」
「えっと……これがどうしたの? 確かに、SNSで見た事あるけど……」
俺がそう言えば、戦さんはニヤリと笑う。
「へぇ、見た事あるんだ。へぇ、そう……」
厭らしい笑みを浮かべながら、戦さんは写真を俺に近付ける。
「この写真が、見た事あるんだ?」
「う、うん……SNSで、ちらっと……」
俺がそう頷けば、戦さんは写真を懐にしまう。
「この写真、私が撮ったの。どう? 結構綺麗に撮れてると思わない?」
「へ、へぇ、そうなんだ……確かに、綺麗に撮れてるね……」
戦さんの真意が掴めず、俺はただ頷くしかできない。
戦さんは、頷く俺を小馬鹿にするように笑う。
「ありがとう。でも、一つ訂正すると、この写真はSNSには投稿してないわ」
「――っ。そ、そうなんだ……じゃあ、見間違いかな?」
「もっと言うと、私が写真を撮ったところには誰も居なかったわ。この写真を撮れたのは、私一人だけって事になるわね。ねぇ、私一人しか撮れないようなアングルの写真に、どうして見覚えがあるの?」
「え、いや、それは……」
口ごもってしまう。咄嗟に口なんて回らない。
というか、戦さんはいったい何がしたいんだ? この写真を俺に見せてきた真意って何?
俺が混乱している間も、戦さんは続ける。
「まぁ、見間違える事はあるわよね。うん、そうよね。ごめんなさいね、責めるような事言っちゃって」
しかし、意外にもあっさりと引き下がる戦さん。これでさらに戦さんの真意が分からなくなる。
けど、ちょっと怖い。安易に二人っきりになるんじゃなかった。いったん逃げよう。
「よ、用事ってそれだけ? じゃ、じゃあ俺は帰――」
「待ってよ」
帰ろうとする俺の顔の横に、戦さんは荒々しく手を叩きつけて俺が帰るのを阻止する。
こ、これって、壁ドンってやつでは……。
なんて思いながらも、まったくドキドキしない。恐怖で心拍数が上がってるけど、恋愛的にはまったく響かない。
「ごめんね、前置きが長くて。和泉くんまたせてるもんね。もう本題に入るね」
眼鏡を外し、戦さんは俺の目を至近距離で覗き込む。
ひ、ひぃ……!
「如月くん、君がブラックローズだね?」
怯える俺に、戦さんは心底楽しそうにそう言い放った。
確信を得た、他の答えなど無いとばかりに言い放たれた言葉に、俺はただ混乱するしかなかった。
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