第78話 ツヴィとリング
花蓮達とビーチボールで遊んでいると、俺の足元に何かが当たる。
見やれば、足元にどこかで見た事があるビーチボールが転がっていた。
拾い上げて少し周りを見渡してみれば、休憩中にビーチボールを拾ってあげた双子の姿がそこにあった。
俺は笑みを浮かべて双子の元へ歩み寄る。
「はい、どうぞ」
「「ありがとう、お姉ちゃん!」」
「ふふっ、さっきぶりだね」
「「うん! お姉ちゃん、もう撮影終わったの?」」
「あー……うん、終わったよ」
本当は中止になったのだけれど、それは言う必要の無い事だろう。
「「そうなんだ……」」
納得したように頷きながら、じーっと俺を見つめる双子。
あ、もしかして……。
「一緒に遊ぶ?」
俺がそう言えば、双子はぱぁっと笑顔を輝かせる。
「「うん!!」」
「じゃあ、こっちにおいで。皆で一緒に遊ぼっか」
そう言って振り返れば、不意に手を繋がれる感触が。見やれば、双子が左右に別れて俺の手を握っていた。
俺は思わず笑顔になりながらも、二人の手を優しく握り返して皆の元へ向かう。
「あれ、どうしたのその子達?」
戻ってきた俺に気付いた輝夜さんが不思議そうにたずねてくる。
「うん、一緒に遊ぼうと思って」
「……さらって来たんじゃないでしょうね?」
「そんなことしないよ!」
「ふふっ、冗談よ。あなたたち、お名前は?」
輝夜さんが腰を|屈(かが)めて双子に視線を合わせる。そういえば、名前まだ聞いてなかった。
「「ぼくがツヴィで、ぼくがリング!」」
同時に言うから解りづらかったけれど、男の子の方がツヴィで、女の子の方がリングという名前のようだ。
外国人さんかな? でも、日本語上手だし、もしかしたらハーフかも。瞳も綺麗な緑色だし。
「そう、ツヴィとリングね。アタシは星空輝夜。よろしく」
「「かぐやお姉ちゃん! よろしくね!」」
「お、お姉ちゃん……悪くないじゃない」
お姉ちゃんと呼ばれてまんざらでもなさそうな輝夜さん。
「輝夜さん、一人っ子だっけ?」
「ええ。妹とか憧れるけど……あ、なんならあんたがアタシの
「遠慮しておきまーす」
俺の場合弟だし。妹って言われたら、変身した姿の方になっちゃうし。
「今お姉ちゃんが妹になると聞こえてきた気が!!」
俺達から一番遠いところに居たはずなのに、桜ちゃんが目を輝かせてやってくる。
「お姉ちゃん、
「ならないから。絶対、ならないから」
桜ちゃんはアリス・ローズをご期待のようだけれど、絶対にならない。輝夜さんにも
「「あー! チェリーブロッサム!!」」
ツヴィとリングが桜ちゃんが登場した途端、
「うえ!? わたし何かしました!?」
「「お姉ちゃん、危ないから離れて!」」
ツヴィが俺の前で手を目一杯広げて
「……桜……あんたとうとう黒奈に手を出したの?」
「出してないですよう! ちょっ、なんでお姉ちゃんを庇うように立つんですか!」
双子の行動に悪乗りして桜ちゃんをからかう輝夜さん。……悪乗り、だよね? あれ、雰囲気が割と本気なんだけど……。
「……
「話付けるって顔してませんが!? 本気で
「野外
「大混乱になるのでそのファンサは控えてください!!」
魔法のブレスレットを取り出して臨戦体勢をとる輝夜さんに、桜ちゃんが本気で
「……何やってるの? すごーく目立ってるよ?」
ようやく花蓮がやって来て、二人を呆れたように見る。
「花蓮、桜がついに奈黒に手を出したのよ……」
「桜、更衣室裏に行きましょう。ちょっと話があるから」
「出してないよう!」
輝夜さんの一言で花蓮の眼が一瞬で冷めていく。
「あー、もう! じゃれあって無いで遊ぶよ! 二人も怖がってるから!」
先程から固まってしまっている双子の頭を撫でながら、収集の着きそうに無い事態をおさめるべく三人の間に話って入る。
「……はーい。議題が一つ増えちゃったわね」
「増やさないでください! そもそも、わたし白ですから! 潔白ですから!」
「桜、その話はおいおい……ね?」
「ううっ……逃れられないの……!?」
肩を落とす桜ちゃんに苦笑をしながらも、未だに硬直したままの双子に声をかける。
「大丈夫? ごめんね、びっくりさせて」
「「――! う、ううん。全然大丈夫!」」
ようやく硬直から戻った双子に、俺は出来るだけ優しげな笑みを浮かべる。
しかし、双子の視線はちょいちょい花蓮を見ている。
まぁ、花蓮はどちらかというとクール系の美少女だから、笑ってない顔は小さい子には怖く写っちゃうかもね。
「大丈夫だよ、怖くないから。あのお姉ちゃんは優しいお姉ちゃんだから」
「「う、うん」」
俺の言葉に双子は頷いてくれるけど、それでも表情は固い。
うーん、これ以上言葉で言っても分からないよね。
「じゃあ、遊ぼうか。ビーチボールする? それとも、海で泳ぐ?」
腰を屈めて二人に問えば、二人はうーんと考える素振りを見せた後、ちらりと近くで砂遊びをする子供達を見る。
「砂遊び、する?」
「「うん」」
「じゃあしよっか。っと、それじゃあ、ちょっと待っててね」
砂遊びをするなら
「ちょっと待っててね。財布取ってくるから」
言って、俺はトレーラーへと向かった。
〇 〇 〇
待っててと言って走り去ってしまった兄さんを見て、思わず苦笑してしまう。
「財布取ってくるって……別にアタシが払っても良かったのに」
溜息を吐きながらも、苦笑をする輝夜さん。
「わたしが払っても良かったんですけどね」
「桜はダメ。見返りに何を要求するか分からないから」
「酷い!? わたしそんなに見境無しじゃないよ!?」
がびーんとショックを受けた様子の桜。しかし、桜はたまに暴走したりするのでその言葉を鵜呑みには出来ない。
っと、私達が話していると、双子がじっと私の方を見ている事に気付く。
「どうしたの?」
「「な、なんでもない……」」
ぎゅっとお互いの手を握って、輝夜さんの後ろに隠れる双子。
……私って、そんなに怖いかしら? そりゃあ、ちょっと表情が固いところは認めるけど……。
少しだけショックを受けていると、輝夜さんが苦笑をしながら双子の頭を撫でる。
「大丈夫よ。このお姉ちゃんも優しいから」
「「本当……?」」
本当、って……信用無いなぁ、私……。ちょっと、何笑ってるのよ桜。
「ええ。なんたって、さっきのお姉ちゃんの妹なんだから。優しくない訳無いわ」
「そうだよ~。花蓮ちゃんは表情こそ固いけど、とても優しいんだよ~」
輝夜さんがフォローを入れてくれた後、桜が遅まきながらフォローを入れてくれる。けど、表情が固いは余計よ。
「「……チェリーブロッサムの言う事、嘘臭い……」」
「ぶふっ」
「なっ、嘘臭くなんて無いよ! ちょっと花蓮ちゃん、何笑ってるの!」
「ご、ごめん……ふっ」
しょ、初対面の子供に、嘘臭いって言われてる……ふふっ、ぜ、全然信用されてない。
「信用されてないの花蓮ちゃんも同じだからね!?」
「桜よりも警戒されてないもん」
「似たようなものでしょ!? ね、ね! こっちのお姉ちゃんとわたし、どっちが信じられない?」
屈み込んで双子に必死に問い掛ける桜。
双子は少しだけ考える素振りを見せた後、最後に互いの顔を見合わせてから、まったくずれの無い動作で桜を指差した。
「「チェリーブロッサム」」
「なんでぇぇぇぇぇええええええええ!?」
「ふっ、勝った……」
その場にひざまずく桜。対照的に、私はガッツポーズを一つする。
そんな私達を見て輝夜さんが呆れたように言う。
「何やってんだか……。花蓮、言っておくけど、どんぐりの背くらべだから」
「でも桜には勝った」
「なんて小さい争い……」
無益ね、と言いながら首を振る輝夜さん。
無益ではない。桜と私のどちらがより子供に好かれているかという優劣のつく戦いだ。決して無益ではない。
「はぁ……こんなアホ二人は放っておいて、奈黒が来るまであっちで遊びましょうか」
言って、二人と手をつないでビーチボールで遊んでいるところまで戻る輝夜さん。
「アホとは失敬な。桜、いつまでもアホなポーズとってないで。目立ってるから」
「酷い!? わたしは今打ち
踏んだり蹴ったりだよう……。と言いながらも、立ち上がる桜。
それにしても、初対面で子供に好かれづらい私はともかくとして、初対面で子供と打ち解け易い桜が、どうしてこうも嫌われたんだろう?
桜は、見た目もそうだけど、雰囲気も柔らかいし優しいので、子供に好かれやすい。桜も子供好きだから、子供には笑顔で接するし、困っている子供がいれば優しく対応する。兄さんが絡んでるから、最初の言動こそ怖がられても仕方無いけれど、それでもその後の対応は悪くなかったはず。
輝夜さんと手を繋いで、楽しそうに話をする双子を見る。
いったい、桜の何がそんなに怖かったのかな……?
「ううっ、子供に好かれてる自信あったのに……」
……まぁ、最初の言動か。良くは見てなかったけど、おそらく変な事をしたんだろう。怖がられたって仕方がない。
「桜は
「オタクの
「そういうところよ、本当に」
呆れながら、桜を連れて皆の元に戻る。その頃には、浮輪やら
後で桜と一緒に説教をする事を決めながら、私達は楽しく遊んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます