第64話 クリムゾンフレア・不知火型
背中にアトリビュート・ファイブを庇いながら、アクアリウスと対峙する。
アクアリウス。星空輝夜のライブの際に、ブラックローズと一緒に戦って倒したファントム。ツィーゲとは違い、寸でのところで逃げられてしまったのは記憶に新しい。
が、なにも問題は無い。
俺は後ろを振り向くこと無く、五人に声をかける。
「これは持論だが」
持論、と言うより、俺の経験則、と言った方が正しいか。まぁ、持論には代わり無いけれど。
「俺は、ヒーローのスタートは誰かを助けるために動く事だと思ってる。誰だっていい。仲間でも、一般人でも、友達でも、なんでも。誰かを助けたい。そう思って行動したとき、そいつは初めてヒーローとして踏み出したんだと、俺はそう思ってる」
実績があっても、俺は
振り向いて、五人の顔をちゃんと見る。といっても、全員仮面を着けているから、顔色なんて分からないけれど。
「お前達は、ようやくスタートを切った。お前達は……いや、アトリビュート・ファイブは、立派なヒーローだ。俺が、クリムゾンフレアが保証する」
偉そうだけれど、俺には実力とキャリアがある。俺なら、そこそこの後ろ盾になれる。例え彼らを知り合いに引き継いだとしても、俺という後ろ盾は在り続ける。
俺の言葉が彼らの自信に繋がるのなら、俺は何度だって彼らはヒーローだと言ってやる。
俺の言葉を聞いた彼らがどう思っているのかは分からない。仮面越しに表情を読み取れるほど、俺達の仲は深くは無いのだから。
言うことを言って、俺は振り返る。
「待ってもらって悪かったな」
「不意打ちで勝利をおさめても嬉しくはありませんもの。貴方は、真正面から潰して差し上げますわ」
言って、アクアリウスは三叉矛を構える。
「おー怖い怖い。俺達に負けた事、根に持ってるのか?」
「ええ、ええ。とても、根に持ってますわ。相性が良い相手、新人魔法少女、無名の魔法少女……私が負ける要素が無いのに負けて……もう、本当に……」
キッと俺を睨みつけ、アクアリウスが地を蹴りつける。
「本当に腹立たしいですわ!!」
肉薄、そして、三叉矛が鋭く振るわれる。
俺は三叉矛をかわし、いなし、反撃に炎を纏った拳や足を繰り出す。が、俺の炎は水に阻まれ、蒸気をおこして消えていく。
拳と三叉矛が乱れ舞う。
三叉矛をかわしたと思ったら、水弾が四方八方から放たれ、それの迎撃に炎を放ちながら、迫りくる三叉矛の二撃三撃をいなす。
こいつ、上品そうな見た目して接近戦は鬼のように苛烈だし、その上遠距離戦もいけるとか、本当に反則だろ!
それに、属性では俺が不利だ。幾ら俺が炎を燃やしても、直ぐにアクアリウスの水が俺の炎を沈火させてしまう。
「ふふっ、やはり、
「そんな事言って、俺にまだ一撃も与えられて無いけど――なっ!!」
「なっ!? くっ!!」
少しだけ気が緩んだその隙に、急激に接近して炎を纏いながら拳を打ち付ける。
アクアリウスは寸でのところで拳と自身の間に三叉矛を滑り込ませて、俺の拳を防ぐ。
が、勢いは殺しきれなかったのか、アクアリウスは勢いをそのままに後方へと飛ばされる。
激しいインファイトを繰り広げた俺達の間に、距離が生まれる。
時間にして数分くらいの攻防だったけれど、戦っている間は倍以上に感じた。
俺は呼吸を整えつつ、アクアリウスに言う。
「
「――っ! ……貴方、本当に生意気ね……!」
「事実だろ」
事実、俺達とアクアリウスでは勝利条件が違った。
俺達は大勢の一般人の防衛。アクアリウスは多勢を率いて俺達を倒して、大勢の一般人の感情を奪う事。
そして、状況で言えばアクアリウスの方が優勢だった。にも関わらず、アクアリウスは俺達に負けたのだ。
「有利を生かしきれない奴が、対等の条件で俺と戦って勝てると思うなよ?」
「なめるな!! 私は
「……ようやっと、お前らの正体に当たりがついてきたな。いいぜ、そっちが名乗るなら、俺も名乗ろうか」
アクアリウスが自身の背負うものを名乗って名乗りを上げるのであれば、俺もそれに答えねばなるまい。なにせ、俺はヒーローなのだから。
ああ、まともに口上を述べるのはいつぶりだろうな。なんとなく、懐かしい。
「世に光あれ!!
全身に炎を
「来い!! 水瓶が乾くまで戦ってやる!!」
「ふんっ。やれるものなら……やってみなさい!!」
小さなアクアリウス・ゲートが四つ開かれる。
そこからウォーターカッターのように水の奔流が流れ出る。
俺は迎撃するため、体中に炎を漲らせる。
アスファルトが熱で歪み、熱気が俺を起点とした熱風を生み出す。
熱風に煽られ、水の奔流が乱れ、炎の熱で水が蒸発していく。
「――なっ!?」
「俺の炎が、まさかあの程度だと思ってたのか?」
なら、心外だ。
あの場では、ブラックローズが勝つのが最善手だった。
星空輝夜の憧れであるブラックローズが前面で戦い、彼女を勇気付ける事が、一番彼女のためになったからだ。
けれど、この場は違う。この場では、俺の背中を見せる事が彼らのためになる。ならば、俺は彼らに頼れる背中を見せなくてはいけない。彼らをヒーローだと言った俺の言葉を彼らが信じられるように、俺が彼らに恰好良い姿を見せなくてはいけない。
だから、出し惜しみはしない。この場で、全力を出す。
本当は、あまり誰かに見せたくは無い。あの人を倒したこの姿は、できればあまり世にさらしたくない。この姿は、あの人を護りたいと、助けたいと思った証の姿なのだから。
女々しいかもしれないけれど、この姿はあの人のためだけの姿だ。それをさらすのに、抵抗が無い訳じゃない。しかし、ヒーローとしての一歩を踏み出した彼らに見せるのに、これほど相応しい姿も無いと思う。
なにせ、俺がヒーローとして本当のスタートを切った姿なのだから。
「
炎が舞い上がり、身体の底から熱が溢れ出てくる。
「な、なに……!?」
アクアリウスが驚愕するのが見て取れる。
「ちょっと熱いけど、我慢してくれよ」
一応、大丈夫だとは思うけれど、後ろに声をかける。
気配はあるけれど、返事は無い。驚いてくれているのなら、俺もこの姿を見せるかいがあるってものだ。
炎が高まり、揺らめく炎がまばゆいばかりの光を放つ。
一瞬の光の膨張。衝撃波が生じ、全てを揺るがす。
光がおさまれば、そこにはいつものクリムゾンフレアの姿は無い。
白く、流麗なデザインに切り替わった鎧を身に纏うその姿は、クリムゾンフレアの二つある内のフォルムチェンジの一つにして、現状最強のフォルム。
悪を焼く、白き炎。
「クリムゾンフレア・
言って、構える。
「す、すげぇ……」
後ろから、レッドのそんな声が聞こえてくる。お気に召したのなら見せたかいがあるというものだ。
「ふぉ、フォルムチェンジですって……!?」
「おいおい。フォルムチェンジはブラックローズの専売特許じゃないぜ?」
まぁ、それにしたってブラックローズのフォルムチェンジの数は異常だけれど。俺なんて、まだ二つしか無いってのに。
「こ、こんなの、聞いてないですわ!」
アクアリウスが目に見えて動揺する。自分の水がいとも容易く蒸発した事が効いているのだろう。
「本邦初公開だ。じっくり見ていきな」
まぁ、速攻でケリを付けさせてもらうがな。
動揺するアクアリウスに向けて駆ける。そこでようやくアクアリウスが動くけれど、もう遅い。
アクアリウスの直前で飛び上がり、白い炎を纏った脚で横凪ぎに蹴りを放つ。
「ホワイト・グローリー!!」
「ぐうっ!?」
三叉矛をギリギリで滑り込ませるアクアリウス。けれど、そんなもので止められる程、俺の炎はやわじゃない!!
脚に纏った炎が光り輝く。炎が俺の脚を押していく。
「な、こ、こんなっ……!?」
アクアリウスが押され、三叉矛にひびが入る。
「こんのぉおおおおおおおおっ!!」
アクアリウスがアクアリウス・ゲートから水の奔流を放つ。けれど、水の奔流は俺にたどり着く前に蒸発し、しまいにはアクアリウス・ゲートすらも蒸発させる。
「なっ!? そんなっ! 私のゲートが!!」
「言ったろ! 水瓶が乾くまで戦うってな!!」
「そ、そんなっ! 私が、この私が……二度も同じ相手に――!!」
「おらああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
気合いの声と共に、脚を振り抜く。
三叉矛をへし折り、アクアリウスを勢いそのままに蹴り付ける。
「きゃぁっ!?」
悲鳴を上げ、アクアリウスが吹き飛び、建物の外壁に勢いよく叩き付けられた。
俺は、蹴った勢いそのままに空中で数回程回転してから着地する。
壁に一瞬張り付き、そのまま重力に従って地面に落ちるアクアリウス。
落ちていくアクアリウスに、俺は言う。
「二度だろうが三度だろうが、お前が悪なら、俺が倒してやるよ」
それが、俺があの人に誓った事だからな。
俺の声が聞こえていないであろうアクアリウスは、そのまま地面に
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