(7)

 完全人間計画とは――


 まず始めに、この計画が発起された経緯を記す――――


 約八十年前、人類最後の戦争があった。


 人類が造り出した全ての核ミサイルが使われた戦争で、地球上のほとんどのものが破壊された。

 多くの人が亡くなり、ほとんどの国も消え去った。


 やがてその日は“消失の日”とも呼ばれるようになった。


 しかし、人や国、そして兵器が無くなったお蔭で、戦争は終わった。ある意味、それが消失の日と名付けられた本当の意味なのかも知れない。


 戦争が終わった後の世界で、ごく僅かではあるが人間は生き残れていたが、人間……命ある生物たちにとって悲惨な世界となっていた。


 大地は荒れ果て、海や空は濁った色に汚れてしまっていた。放射能などの有害な物質が大気中に拡散し、地表は散ることのない霞に包まれてしまった。


 劣悪な環境の影響で、様々な病気が発症し、蔓延した。


 ある調査では、病気での死者数は戦争での死者数よりも多いとの報告もある。


 この病気から運良く生き延びられた人間や、新しく命を繋いだ人間に大いなる問題をもたらした。ある者は身体の一部が欠けたり、またある者は視覚などを失ったりと疾患を患う人たちが多くなっていった。


 薬などの物資が不足しており、満足に行く手術も不可能で治療することは出来ず、そういった人々は増え続け、やがてそれが普通となっていた。


 戦争が終結してから、三十年の月日が経過した頃だった。


 ある科学者……記録では、アーイン・ボルスと言う名前の科学者が特効薬の開発に成功した。


 特効薬……といっても“薬”では無い。


 その正体は極小の機械――“ナノマシン”であった。


 アーイン・ボルスが開発したナノマシンは、病気の元となるウィルスをせん滅したり、神経を繋ぐ役目を担い義手や義足といった人工義肢を本物の腕のように動かせることが出来るようにした。


 しかも、ナノマシンのエネルギー源は“放射能”であり、体内にある放射能を摂取し、ほぼ無限に動作することが可能だった。


 技術が進化により、ナノマシンの有効活用の幅は広がっていき、ナノマシンによって身体機能を向上するようにしたり、または機械を身体と融合するかのように組み込みを出来るようにした。


 本来、身体に異物が侵入してしまうと拒絶反応が起きてしまうものだが、それをナノマシンで解消して、脳に直接コンピューターを搭載した者、眼をカメラに改造した者など……そういった身体の改造を容易にしたのであった。


 こうしてナノマシンのお陰で劣悪な環境の中でも人間は普通に生きられるようになり、ほとんどの……いや、この世界で生きる全人類の身体の中にはナノマシンが入っているようになったのだ。


 ナノマシンは人間にとって無くてはならないモノ……当たり前のものとなっていた。

 そんな世界で、もしナノマシンが一つも身体の中に入っていない人間が現れたとしたら。

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