(4)
ティアはガラスケースの中に入れられていた。
ケースは一昔の電話ボックスのようなもので、大人が一人ぐらいしか入れないほどの広さだった。しかし、子供のティアにとっては、それほど窮屈ではなかった。
ティアは透明な壁に手を触れ、辺りの様子を覗いた。
薄暗い空間。天井はそれほど高くなく、地下の駐車場のようだった。所々の地面や柱はヒビが入っていたり、剥がれていたりとボロボロだった。
ここは、かつてナイツが自身の性能を計るために複数の男と闘わされた場所であったが、それをティアが知る由もなかった。
ティアは、このケースの中に入って、指示があればその通りにするようにと博士に言われただけだった。それに伴ってティアの耳に小型のインカムが付けられていた。
これが何の検査なのかは詳しく説明されていなかった。ティアは不可解な顔で検査が始まるのを待った。
博士はティアがいる場所とは別の一室にデンジャーたちと一緒にいた。そこにはナイツや博士と同じ白衣を着た人たちもいた。
各々ディスプレイに映し出されたティアを眺めていた。すると、博士はゆっくりとデンジャーの方を向いて伝えた。
「デンジャー様。準備が整いました」
「そうか、ならばさっさと始めさせろ」
「かしこまりました」
博士は踵を返し、他のメンバーたちに指示を出す。
「これより“完全人間計画”のプロト実験を開始する。実験体たちを放ち、COM電波を放出せよ」
――ビィー
高い音が鳴り響いた。
暫くすると、ティアがいる広場に複数の男たちがぞろぞろと姿を現し始めた。
男たちの顔はどれも厳つく荒々しく、身体のアチラコチラには機械が備え付けられていた。男たちの手には拳銃などを所持し、とても真当な人間とは思えなかった。
そんな男たちの姿を目の当たりにして、ティアは怯える。
「な、なに……?」
瞬時に、インカムから博士の声がティアに届けられる。
『ティア様、落ち着いてください。何も怖いことはございません』
「で、でも……あれは?」
『あれは、アンドロイド(改造人間)です』
「アンドロイド?」
『簡単に言いますと、ただの“人の形をしたロボット”です』
「ロボット……」
記憶を失ったティアだったが、それがなんであるかは覚えがあり、そもそもナイツと同様の存在であるということだ。
『そうです。これはロボットの動作実験です。これより、あのロボットたちが“人間に危害を加えず、忠実に命令を聞く”かを調べます。しかし、どうか心配はなさらずに。決して、ティアを傷付けることはありません。それに今、ティア様が入られているケースは特殊な防弾ケースですので、どんな事が有っても壊されたりしませんので、ご安心ください』
そうは言っても、見た目的に威圧を感じさせる男たちがいるのに、ケースの中にいても独りでいるティアは安心を感じることが出来なかった。
そんなティアの気持ちを差し置いて、博士は違うマイクのスイッチを押して、話し始める。
『さて諸君、こんにちわ。私の声が聴こえているな』
博士の声が周囲に響き、その声に反応する男たち。
「なんや、こんな陰気な場所に呼び寄せやがって」
「顔を出せや、顔を! 失礼やぞ! ゲャッハハハハッ!」
『静粛にして頂きたい。諸君たち』
博士や男たちの声はケースの中に入っているティアには届いていなかった。防弾だけではなく、音も防音する構造にもなっていた。
音の無い世界。
ただティアは怯えつつ、外の……厳つい男たちを注視していた。
『さて。本日、諸君たちにやって貰いたいのは、奥にあるケースの中に入っている少女に危害を加えて貰いたい』
ざわつく男たち。自ずとケースの方に入っている少女に視線を向けた。
「おいおい、オレたちにそんなヒドイことをしろってか? まぁ、普段からしてるけどな」
その言葉に同調するかのように、男たちは下卑た笑い声を響かせる。
「てか、なんで、あんなガキの相手なんかしないといけないんだ? 処刑か? リンチか?」
『そんなことを諸君たちが気にすることはない。ただ、わしの言う通りにしてくれれば良い。さぁ、いつでも始めてくれたまえ』
「ちっ。まぁ、ガキ一人をヤルだけで、それなりの報酬が貰えるのは、なんか嘘臭いが……」
「とっとと片付けて、酒でも飲もうや」
「そうだな」
「しかし、よう。さっきから、変な耳障りな音がしねーか?」
「そうか? そんなこと気にするなよ。それじゃーと……バイバイ、おじょーちゃん」
男の一人が手にした銃をケースに向けると、引き金に指をかけ、躊躇なく引こうとしたが――
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