(9)

 無事着地した後、直ぐ様ティアは保護されて、再びタワー最上階の広い部屋へと閉じ込められてしまったのであった。

 しかしティアは、ナイツのことが気になり、デンジャーにお願いした。


『あの、ナイツという人に会わせて欲しいの……』


 デンジャーは、その願いを聞き入れ、再びティアにナイツを会わせた。

 そして、あの事件を考慮して、ナイツをティアの護衛として命じたのであった。


 デンジャータワーの中腹部に位置するフロアにデンジャーの部屋がある


 といっても、数ある部屋の一室にしか過ぎない。ティアの部屋とは打って変わって、ソファーとテーブル。モニターがあるだけの簡素の部屋だった。


 そこでデンジャーはソファーに座り、ワイングラスを片手にくつろぎつつ、博士からあの一件……ティアとナイツ、突然の停電事件についての報告を受けていた。


「宜しいのですか。ナイツをティア様の護衛に?」


「仕方あるまい、お姫様のワガママだ。それに、あの件の事もある……。あの時、ナイツがティアを助けていなかったら、せっかくの完全人間を失うところだったのだぞ」


「それは確かにですが……ただ、またナイツがティア様の言うことを聞いてしまわないかと……」


「それについては、ナイツにしっかりと命令しているのだろう?」


「そうですが……。あのヘリの操作についても……ナイツはティア様に言われて、為すがままに操作していたとのことです」


「その原因については、あの実験の“所為”なのだろう?」


「その可能性は高いです。実験の時に、ナイツも同行させていましたから」


「それはそれで、実験が上手く行っているという事でもあるな。それならば、ナイツに電波を当てぬように気をつけろ。それで博士、あの一件の原因は掴めたのか?」


「はい。セキュリティシステムのデータなどがハッキングまたはウィルスによって、書き換えられていたのが原因でした」


 デンジャーの表情が渋る。タワーのライフラインを制御するネットワークのセキュリティレベルは厳重で、様々なプロテクトが施されていた。言うならば、もっとも重要な場所であり、防護が厚いところでもあった。そこを攻撃されたのだ。


「それを行った犯人は掴めそうか?」


「それは難しい状況です。全てのセキュリティポイントに足跡も付いておりませんでしたから、相手は相当の技術を要しているか、新しい新技術で侵入した可能性も考えられます」


「敵は、あの手この手でやってくるか……」


「そうですね。私自身、攫われてしまったことがありましたからな。まぁ、その時は寸前のところでデンジャー様に救われましたが……」


「そうだったな。敵が新技術を開発しているのならば、急がせなければならんな。完全人間(パーフェクト・ヒューマン)計画を」


 デンジャーは険しい表情を浮かべて強く言葉を発すると、博士もまた同調するように深く頷いたのであった。

 博士が室内から出ようとした時、ふと気になったことを口にした。


「ところで、なぜナイツが屋上にいたのだ?」


「そ、それは…ナイツに屋上での護衛を命じていたからではありませんか?」


「……そうか。まぁいい、あとは頼んだ」


 博士の回答に納得したのか、デンジャーの関心は最近手に入れたヴィンテージのワインを酒飲することに移った。


「それでは、私はこれで……」


 この時、博士の額にうっすらと冷汗が浮かんでいたが、デンジャーもとより博士自身も気付いていなかったのであった。


 博士は廊下を歩きつつ、思考を巡らせていた。。

 あの後、ナイツを検査したところ、不思議な声が聞こえてきたと報告されていた。

 その件については博士に思い当たることがあった。ティアが眠っていた場所で見つけた“動画データ”。


「もしかして、あれをナイツに見せたことで影響を受けたのか……」


 そんな独り言を呟きながら、自身の研究室(ラボ)へと戻っていった。

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