(7)

 少し時間を遡る―――

 ティアとナイツは大型ヘリコプターに乗り込んでいた。


 操縦席にナイツが座し、操縦桿を握りしめていた。目の前には様々な計器やモニター、ボタンなどが並んでおり、ナイツは不慣れな手つきで飛行の準備を行なっている。


 ナイツは、これまでヘリコプターを操縦したことは一度も無い。デンジャーの警護として、ただ後ろから眺めているだけだった。


 しかし、ナイツは操縦方法を何となく理解していた。

 なぜ操縦方法が分かるのかナイツにも解らなかったが。今はただティアに“依頼”された、ヘリの操作を全うするだけに集中していた。


 やがてエンジンが始動し、プロペラが回転し始める。

 プロペラの回転速度が上がるにつれて風を切り裂く音が激しくなり、大型ヘリはゆっくりと浮上し始めた。


「すごい……」


 地面が徐々に遠ざかっていく。その様子に、ナイツの隣の席に座っていたティアは感嘆の声を漏らした。


 ヘリコプターはゆっくりと動き始め、飛行姿勢も上手く制御出来ていた。

 ここからどこへ向かえばいいのかと、ナイツがティアに尋ねようとした瞬間だった―――強風が吹き荒れたのである。


 強烈な横風に直撃され、ヘリコプターは大きく傾く。


 突然の揺れと衝撃にナイツは慌てて操縦桿を動かしたが、これが失敗だった。

 機体は横転し、落下を始めたのである。


 ヘリコプターはエンジンが止まっても、グライダーのように滑空できる。

 もしナイツが操縦技術を持っていれば、横転した機体の姿勢を修正して、墜落を免れられたのだが――その技術は、まだインストール(習得)されていなかった。


 墜落していく中、ティアは混乱しつつ叫んだ。


「助けてー!」


 その声に、ナイツは咄嗟の行動に出た。

 ナイツはティアを抱きかかえると、扉を蹴り開け、躊躇無くヘリコプターから飛び出したのである。


 尋常で無い脚力でビルへと向かって高く強く跳躍したナイツは、左腕のみでティアを抱え、右腕を伸ばした。


 ナイツの右手が壁に触れる。少しでも落下速度を弱めようとするも、落下による摩擦で右手と壁の間に火花が走る。バイオコーティングされて高強度の硬さがある肌だからこそ壁に触れ続けられた。


 やがて窓付近の突起に指が引っかかって掴んだ。すると落下速度とティアの重さが右手にかかる衝撃となったが、ナイツはその手を離さなかった。


 今、ナイツたちがいる場所は地上から七十メートルほどの高さだった。


 夜の暗闇で下がよく見えなかったが、ティアは自分が普通ではない場所にいることに、恐怖で身体が震え、声も出なかった。


 やがて、ティアたちが乗っていたヘリコプターが地面に激突し、大きな音と炎と煙とが上がった。

 

 デンジャーが驚いた光景は、これであった。


 炎の明かりで地上が明るくなる。


 目が回るほどの高さにいるのを知ったティアは、恐怖でパニックになりジタバタと暴れ始め――ナイツの腕から滑り落ちた。


「あっ……!」

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