(4)
真夜中。
ベッドの上でティアは膝を抱えていた。
何をすることもなく、ただ静寂の中でじっとしている。
ティアは目覚めてから、深く眠れなかった。
まったく眠れないわけではない。しかし、眠りについたとしても、短い時間で目を覚ましてしまうのであった。
不眠は冷凍睡眠による弊害だと診断された。長時間眠るのを心のどこかで拒んでいるという精神的な問題なのだと。
それと違和感があった。
ふと、自分の隣を見る。
いつも寝る時は誰かが寄り添ってくれていたような気がした。
記憶を失っているティアにとって思い違いなのかもしれないが、独りで寝るという状況が心の隅を突いていた。
部屋の天井には窓が付いていた。そこから外の……空の景色が見えるはずだったが、雲に覆われていて、星も月も見えなかった。
ティアは味気ない夜空を眺めながら、浅い眠りに誘われるのを待つことにした。
その時だった。
――プシュー!
突然、空気が一気に排出されるような音がした。
ティアは何事かとベッドから降りて辺りを伺ったが、薄暗くてよくわからなかった。
夜目でかすかに見える視界の中で、音がした方にゆっくりと進んでいくと、普段はデンジャーたちが来るときだけ開く扉が開いていた。
恐る恐る開いた扉の向こうを覗き込んだ。
扉の奥は、より真っ暗だった。
でもティアは部屋から出たいという欲求に背中を押されて、戸惑いながらも躊躇いを振り切って扉の向こうへ一歩踏み出した。
ティアは暗闇の廊下を壁に沿って進んでいく。
この先に何があるのか解らない不安と、デンジャーたちに見つかったら怒られるかも知れない恐怖が心を覆っていた。しかし、いつまでもあの部屋に閉じ込められているよりかはマシだと思い、勇気を振り絞っていた。
やがて、廊下の終わり……行き止まりに辿り着いた。
小さな冒険も、ここで終わりかと……思ったが、手探りでぶつかった壁を触っていると、突起――取っ手があるのに気づいた。
その取っ手を握って、何気なく押してみると少し動いた。これは扉の取っ手だとわかって、力いっぱい押した。
ティアは弱い力で扉を開けるのが大変だったが、なんとか開けることができた。
扉の向こうには、非常灯の小さな光がついていて、辺りを照らしていた。
そこには上へと続く階段があった。
ここは部屋ではなく、屋上へと続く非常階段のあるスペースだったのだ。
ティアは階段を見上げて、行けるところまで行こうと思って、意を決して上り始めた。
階段を上りきって、踊り場のような場所に辿り着いた。そこには扉があって、わずかに開いていた。
その隙間を大きく広げて、念願の外へと飛び出した。
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