(4)

 デンジャーはバンダナの青年を品定めするように見つめた。

 バンダナの青年は自分が陥っている状況に物怖じせず、明らかにリーダー格の男、デンジャーに物申した。


「おいおい……一体、これは何のマネだ?」


「すまんな。万が一の用心だよ。これでも命の狙われている身でね。もしかしたら何かしらの罠なのかも知れないだろう」


「ふん。殺しが目的なら、ヘリにこの砲銃を撃ちこんでいるよ」


「はは、確かにそうだな」


 バンダナの青年は目の前にいる男が“デンジャー”だとは知らない。しかし、身なりや雰囲気からは、ただのエージェントではないと判断していた。


「……まさか、依頼主自身か?」


「ああ。重要な取引とかには、直接私が出向くことにしているんでね。“クール”君」


 バンダナの青年…クールは自分の名前を呼ばれて内心驚く。


「オレの名前を知っているのか?」


 デンジャーは柔らかい表情を浮かべた。


「取引の相手をちゃんと把握しているのは当然だ。さて、その取引を早速始めよう。例の情報を教えて貰おうか」


 デンジャーの言葉に対して、クールは空いている方の手を差し出した。


「まずは、そっちが出すものを出してからだぜ」


「確かにな。おい!」


 デンジャーは体格の良い男に声をかけると、両手に二つのジェラルミンケースを持っていた男がクールへと近づき、丁重に一つのケースを地面に置いて、開けた。

 ケースの中には見事な黄色の光沢を放つ黄金が詰められており、初めて目にする大金にクールは思わず息を飲んだ。


「その中には一千万ほどの価値がある金が詰まっている。もう一つのケースにも同様に入っている。残りは情報が本当かどうか確認してから支払おう」


「あ、ああ……」


 目の前に置かれたケースに近づいたクール。これほどの大金を見るのは初めてだった。若干動揺と緊張を感じていた。意外にも小心者だった。

 金を直接手に取った。見た目から想定した以上の重さにずっしりと感じた。ハァーと暖かい息を吹きかけたり、表面を削ったりしてメッキではないと確かめた。


「間違いない、本物だ。これだけあれば……」


 世界が大戦で壊滅しても黄金の価値は変わらなかった。これだけの黄金があれば、最低十年は働かなくても贅沢な暮らしができると試算した。

 クールは懐から薄く小さい板状の物……メモリーカードを取り出して、


「ほらよ」


 デンジャーへと投げ渡したが、彼の所までには届かず地面に落ちたのだった

 呆れたようにデンジャーが「おい」と呼びかけると、ケースを置いた男が地面に落ちたメモリーカードを拾い、主の元へと届けた。

 メモリーカードを手にしたデンジャーは、裏表をひっくり返しつつ確認する。


「なんだ、随分古いメモカだな。データは消えていないだろうな?」


「多分大丈夫じゃないかな。この間、手に入れた品だから」


「そうか……。おい」


 デンジャーは、そのメモリーカードを拾い届けてくれた男のコメカミに空いている隙間へと躊躇無く押し込んだ。


「S五十……N三十……ローディング中……」


 メモリーカードを入れられた男は、片言の独り言を呟いた。どうやら無事に中身のデータを読み取ることができているようだった。クールは内心安堵していたが、デンジャーはまだ気を抜いていなかった。真贋の結果を確認するまでだ。


「……デンジャー様。読み込み完了しました」


「それで場所は?」


「マーカス地域のデトロ地点から、北西Aのgスポットです」


「そうか……。それじゃ、確かめに行くか」


 デンジャーはクールに背を向けて歩き出し、直ぐ様クールが声をかける。


「お、おい、残りの金は?」


「言っただろう。情報が確かだったらな。ついて来い、案内して貰うぞ」


 今ここで残りの金を貰えないことにクールは舌打ちをして、地面に置かれたジェラルミンケースを拾い上げた。面倒くさそうにデンジャーの後を追い、ヘリコプターの中へと乗り込んでいった。

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