(3)
「ビンゴ!」
青年はそのレバーを掴んで動かそうとするが、長い年月、ほったらかしにされて錆びついているのか挙動部は固くなっており、中々動かせなかった。
力を込めて少しずつだがレバーを動かしていくと、その動きに連動して扉がゆっくりと開いていく。
やがて青年が通れるほどの隙間ができたところで充分として、狭い隙間から入っていった。
しかし、扉の先には通路があり、その奥へと進んで行くと、またしても扉が立ちはだかった。
「ま、まぁ…そうだろうな……」
青年は顔をしかめ、疲労困憊のため息を吐いた。
扉を開けるたびに、次の扉が進行を妨げる。
その度に開閉レバーを見つけては、扉を開いていった。
いくつもの扉に邪魔されて、青年は埃と汗にまみれになりながらも、七個目の扉を開くと、これまでの通路とは違う広い空間……部屋のような場所に出た。
その部屋は埃が多く積もっていたが他の場所と比べて被害は皆無だった。
そして部屋の中央に設置されている大きな機械が目に入った。
「あれは……」
その機械からは、ぼんやりと明かりが発していた。
ゆっくりと近づきながら様子を探っていると、僅かに電子音が聴こえてきた。
「おいおい電気が通っているのか……」
機器類が動作していることに状態の良さに驚く。
微かな明かりが漏れている場所には、小さな窓があるのに気付いた。窓には埃がびっしり積もっており、中が良く見えない。
窓の埃を払うと、人間の顔が浮かび上がった。
「うわっ!」
突然の登場に、思わず驚き仰け反ってしまい尻餅をついてしまう。
「な、なんだ……?」
心を落ち着かせて、恐る恐ると再び窓の中を覗き込むと、そこには安らかな表情で眠る少女がいた。
「人間……。女? 生きているのか?」
よく確認しても生死の判断はつかない。ただ、肌の状態は新鮮で、とても死んでいるようには思えなかった。
「もしかして、これ……冷凍睡眠装置か」
大きな独り言を発し、青年は辺りを見回す。機械(ポッド)の中に入っている人間の情報の痕跡がないかを探した。
近くの机の上に置かれていたコンピューターを見つけては適当にキーを打ち込んだが、何も反応はなかったが、電源は生きているのか小さな明かりが点灯している。どうやらコンピューターにはセキュリティロックがかっているようだった。
どうにかしてコンピューターを動かそうと思案していると、机に何やら文字らしきものが刻まれているのに気付く。
「これは?」
青年が判読できる部分だけを読み取る。
「EG九十一……確か、このEGって確か終末の時代の年号だよな……という事は、これ……約七十年前の時のものか」
続けて判読できた文字を読む。
「T…E…A、R……名前か何かか?」
他にも文字が書かれていたが、難解な単語の組み合わせの文章となっており、後は判読できなかった。
だが、青年は推測する。
おそらく中に入っているのは終末の時代の人間。その人間に対して別れの文章が書かれているのだと。
しかし、そんな別れの文章より冷凍睡眠装置に入っている人間が、いつ冷凍睡眠されていたのかが重要だった。
刻まれた文字を追っていくと、日付らしき数字の並びを見つけた。
「9月11日……消失の日前の人間か!」
青年の口元が緩んだ。
「よっしゃー! 今までオレが見つけたガラクタの中で、最高の宝物だぜ!」
喜びを爆発させるように叫んだ後、高らかに笑った。
ポッドの窓から漏れる僅かな光が室内を照らし、青年の怪しげな笑い声が響く。傍から見れば、とても不気味な光景だっただろう。
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