(2)

 穴の中を覗き込むと、中は当然の如く真っ暗だった。深部の先は何も見えなかったが、何かがありそうな直感がビビッとくる。


 穴を拡張させようとしたが、その場所はコンクリートではなく金属でできていた。中規模の爆薬程度では破壊できない強度があった。


「もしかしたら……。う~ん、だけどここでアレをぶっ放すのもな……。威力は高いんだけど、その分値段も高いんだよな……いや、ここはオレの直感を信じるか」


 青年は背負っていたリュックサックから一つの弾丸を取り出した。所持する弾丸の中で最も強力な威力がある弾だった。

 掌に収まらないサイズで、ずしっと重みがする弾丸を強く握り締めると、穴の中に貴重品が眠っていると願いを込めて、名残惜しそうに砲銃へと装填した。


「よしっと……」


 小さな穴に狙いを定めて、引鉄を引く。


 銃口から放たれた弾丸は穴付近の場所に直撃すると、先ほどよりも大きな爆発音と衝撃が起こった。

 あまりの破壊力に青年はバランスを崩し、地面に腰を着いてしまった。小さな穴は、青年がギリギリで中に入れるほどの大きさに拡がっていた。


 青年は穴の先を伺い、覚悟を決めて穴の中へと飛び降りた。


 穴の中は通路のような場所で陽の光が届かず真っ暗だったが、青年は明かりなどを点けずに辺りの様子を見回した。

 所々崩れており、瓦礫が散乱していた。だが、地上と比べて大した被害はなかった。


「地下……だからじゃないな。それなりにしっかり造られているようだな……」


 壁を触って質感を確かめつつ、建造物の耐久性を憶測する。覚悟を決めて、恐れずに暗闇の先へと進んで行く。

 時々、瓦礫に足を引っ掛けて転びそうになってしまったが、奥へ奥へと進んでいき、やがて行き止まりに辿り着いた。


「……いや、扉だ」


 青年の前に壁と一体化したようなシンプルな扉があった。


 扉のそばにはディスプレイ機器が設置されており、本来ならこれで扉を開けるのだと推測した。

 だが、適当にディスプレイを触っても何も反応しなかった。


「やっぱり故障しているな。そもそも電気が通ってもないし、完全にダメになっているんだろうな……」


 とりあえず力ずくで扉を開けようと、押したり引いたり、上へと持ち上げたりしたが、扉はビクともしなかった。

 どうやって、この扉を開けるかと考える。


「やっぱり強行突破しかないかな」


 そう呟き、青年は愛銃を手に取った。

 扉から少し離れ、銃口を扉に向けて、撃ち放つ。

 先ほどと同様の爆発音と衝撃が奔る。弾は見事に扉に命中したが、微かな傷と軽い焼き焦げを付けただけだった。


「おいおい……。オレの手持ちの弾の中で最高の弾なんだぞ……。流石は、人類が最も繁栄した時代の遺物か……」


 頑丈な扉を前に昔の技術力を感心しつつも、尚更この扉を開けなければと決意する。

 なぜなら、十中八九この扉の先には手付かずの“宝”が眠っていると、確信を持ったからだった。


 しかし、相手(扉)は最高の破壊力を持つ弾丸でも壊せない頑丈な扉。しかも、この手の防護扉は何重にも存在していると予測できた。何発も弾丸をぶっ放して壊すというのは難しい。それに弾丸の数も、多くある訳では無かった。


 青年は頭を抱えながら、隅々と扉の周りを見た。

 この手の防護扉はコンピューター制御するにしても単純明快な作りになっていることが多い。


 防護扉は災害から身を守るためのものであり、ただの扉の役目だけである。つまり、災害が起きればライフライン……特に電気系統などが真っ先に使えなくなる可能性が高い。災害から身を守れたものの、その後、電気が通ってなくて扉を開けることが出来ないのは愚の骨頂だ。


 その為、電気が使えなくなった場合に備えて、何処かで“手動”で開けられるようにしている可能性は高いと推測した。


 辺りをくまなく見ていると、扉の隅に隠し扉があることに気付いた。その扉を力任せに開くと、レバーらしき突起物を見つけた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る