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 冷凍睡眠装置(コールドスリープ)とは――人体を低温状態に保ち、人体の老化を防ぐ長時間睡眠装置。

 冷凍睡眠には“冷凍タイプ”と“冬眠タイプ”の二つのタイプがある。


 冷凍タイプは、完全人間を氷結させて冷凍保存するものである。完全氷結することによって、人体の老化を完全に止めることが出来る。しかし、冷凍保存と言っても、そう簡単なものではない。冷凍タイプには大きな問題があった。


 完全に凍結した後、解凍する時に素体(人体)を“傷つけず生きたまま解凍”するのは難しいのである。その難しさは、言うならば死者を甦えさせると同義なのだ。


 それは何故か?


 生物は小さな“細胞”が集まって構築して成り立っているのは周知の事実。そして生物の身体の七割は水分で構成されている。この細胞と水が問題なのだ。


 水は凍ると水の体積が膨張してしまう。この膨張によって細胞が傷ついてしまい、細胞が壊死してしまうのだ。


 例えば冷凍していた豚肉などを自然解凍すると、赤い液体(血液)が滴っているだろう。それは細胞が欠損して血液が流れしまっているのである。


 科学が発達した現在でも、この問題は解決出来ず、冷凍タイプの技術は確立出来ていなかった。


 そこで冬眠タイプである。


 冬眠タイプは、凍らない程度の低い温度で保存し、代謝活動を低下させる方法である。

 つまり老化を完全に止めることは出来ないが、老化の進行を遅くすることが可能なのだ。


 そもそも老化とは何か?


 細胞は劣化して壊れていき、新しい細胞が生まれる。この新しく生まれた細胞は前のと比べて劣化してしまっている。簡単に言えば、これが老化の要因になるのだ。


 冬眠タイプの冷凍睡眠装置とは、細胞の成長と劣化を抑制し、人体を長期保存させる。要は、細胞の成長と劣化を防げば良いのだ。


 では、その為には、どうするか?


 人間もとより地球上の生物にとって必要な物質である“酸素”。


 この酸素が、生物が生きる上、そして成長する上で必要な物質だ。この酸素を摂取しなければ生きてはいない。


 酸素を、まったく摂取しないことは無理だが、摂取する量を減らすことが出来れば、成長の抑制が理論的に可能なのだ。


 それと合わせて、心臓の心拍数も重要になる。


 心臓は摂取した酸素を赤血球で身体全体に送る機能を持った臓器であり、心臓の鼓動(心拍)は、酸素を身体全体に送り込んでいるためのものである。亀やゾウなどの長寿の動物は、この心拍数が少ない。冬眠タイプの真髄はそこにある。


 摂取する酸素の量や心拍数は少なければ少ないほど、老化を極力抑えられるということなのだ。

 機械(コンピューター)で、温度、酸素の量、心拍数を制御し、低温状態を保つことによって長期保存を可能にする。


 冬眠タイプは冷凍タイプよりも比較的容易で、科学的根拠があるため実現可能と永く提唱されて研究が進んでいた。

 青年の目の前に立ち並ぶ仰々しい機器類は、つい二ヶ月ほど前に完成したばかりの冷凍睡眠装置(コールドスリープ)。


 もちろん、この装置でモルモットや人体実験は行われていた。実験結果は、冷凍睡眠装置で一年過ごせば、身体……細胞の成長速度は一日ほどに抑制できた。


 実験後の検体は、後遺症も無く普通に生活を送ることができたようだ。しかし本来なら、もっと沢山の検証実験が必要だった。


 もしかしたら、コールドスリープから一年後には、検体に何かしらの後遺症が発症していたかも知れない。だが、それを検証する時間は無かった。

 今、自分たちの頭上でミサイルが降り注ぐ戦争が始まったからだ。人類全面戦争が。


 検証実験は途中で中止になってしまったが、一定の成果を達成していたので、冷凍睡眠装置(コールドスリープ)は完成とされた。だが、完全に安心・安全とは言えなかった。



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