第1章 第7話 野盗殲滅戦(1)

 野盗が逃げて行った方角は最初は南西だったが、道から完全に見えなくなったところで南南東へと進んでいた。マツリが仕掛けた追跡用の【目印】の反応を追っているため、追跡を撒こうとしても位置の把握は完璧だった。気配探査を行いつつ、ある程度の強度を持つ反応は迂回しながら進んでいく。


「まだ移動してるみたい。あまり近づき過ぎると気付かれるよね?」

 マツリがエイルに確認する。

「そうだな……。一旦休憩するか」


 二人は馬から降りると、食事の準備をはじめた。幌馬車に積んであった桶に【水生成】の魔術で水を出してやり、同じく積んであった飼葉を出してやると、馬達も食事を始めた。エイルとマツリは、以前に焼いておいた肉を異空間収納から取り出して追加で積荷にあった干し果物を添えただけの、簡単な食事を済ませるのだった。


◆◆◆◆ 


 盗賊団の頭領ジンの心中は荒れていた。だが面には出さず、冷静さを繕っていた。


 今日は狩場に入った商人の馬車を襲って大した被害もなく制圧に成功し、気分良く酒を吞んでいたのだ。そこに金持ちの馬車も襲撃に成功したと報告が入り、捕らえた女と積荷をお得意様に卸に向かわせた。実に景気の良い一日だとご機嫌だったところに、手下を十人も殺され馬車ごと奪われという報告が入ったのだ。


「頭ぁ、どうしやすか?」

 ジンは当たり散らしたい気持ちを抑え、黙考する。


「(……。馬車奪われてから時間が経ってる。今からじゃ追いつく前に街に逃げ込まれる。かといって、放っておけば街から討伐隊でも出て来るかもしんねぇ。厄介だな。逃げるだけじゃ舐められる。報復は必須か)」


「……。拠点を移す。落ち着いたところで街に潜入して報復だ。荷をまとめに掛かれ!」

 ジンの号令で手下達が一斉に動き出した。


◆◆◆◆ 


 エイルとマツリは樹上から野盗の拠点を確認していた。山小屋とその裏手の洞穴を拡張した横穴に出入りしているのがみえる。


「荷物の運び出し始めてるね。追手というより拠点変更かな?」

「あぁ、多分そうだろう。移動される前に仕掛けよう。先ずは狙撃で見張りを排除。近付いたら荷馬車を潰す。あと、馬に寄らせないように撃破していく」


「注意点は?」

「出て来るやつは迎撃すればいいが、立て篭もる奴と逃げる奴が厄介だ。マツリは裏手に回って、逃げる奴を優先でやってくれ」


「了解。他は?」

「人質を使われた場合。野盗に捕まってる人が居ればなるべく助けたいけど、無理なら諦めろ」


「了解。無理しない範囲で頑張る」


 マツリは頷くと裏手の洞穴側へと移動していく。エイルは異空間収納から滑車式複合弓と矢筒を取り出して待機した。配置に着いたマツリから【風操作】で『配置についた。いつでも』と声が届けられ、作戦が開始される。


 荷馬車の御者台で見張りをしていた男が風を切る飛来音に気付いた時、矢がこめかみを貫通してその命を奪っていた。


 山小屋の見張りから死角に回り込む様に、荷馬車に近付いて行く。馬と荷馬車を接続するハーネスを異空間収納に回収し、馬を自由にしておく。続いて樹につながれた馬達も馬具を回収し、自由にしておく。


 幌付きの荷台に積まれた荷も回収し、御者台の見張りの死体を紅い指輪の異空間収納に収めた。周囲の様子を窺うと積荷を持った男が荷台に近付いてくる気配を察し、異空間収納から短刀を取り出して入口脇の死角に隠れる。近付いてきた男が荷台に木箱を下ろしたところでエイルは【風操作】により【遮音】を仕掛け、男を荷台に引き摺り込んで首を一突きして絶命させた。紅い指輪に収納して処理する。続いて荷台から山小屋の見張り状況を確認してみる。見張りに動きはなく、馬車の異変にも気付いていないようだ。


 エイルは一旦木々に隠れるように下がり、見張りの右側に回り込むと、滑車式複合弓に再度矢を番えて狙いを付ける、見張りの逆方向、左側に【風操作】で声を転送する。


『おい!』


 突然声を掛けられた見張りは何もない左側を向いて首を捻っている。エイルはその隙に見張りの後頭部を射貫いた。


 これで三人目。絶命した見張りは紅い指輪に収納しておく。これで表側の外に居た野盗は処理が完了した。滑車式複合弓は異空間収納に格納して、腰に二本差しの刀を帯びると、表側に置かれていた荷馬車を異空間収納に格納した。屋内戦では武器の長さで有利が取れるとは限らない。天井が低かったり道幅が狭い空間だと、小型の武器をメインにする方が効率が良い場合もある。この山小屋は一階部分が木材の乾燥のための倉庫のようになっており、天井も高いことが窺えた。木材の積まれ方次第では脇差あるいは短剣の出番もありそうだが、基本的には打刀の方で十分だろうと考える。


 エイルは魔力が激減している体調の中でも、低燃費の魔術を細かく使用して、高い効果を得ていた。元より高魔力消費の高火力魔術より近接戦闘技術を好んでいたため、立ち回り自体に違和感は無いのだが、魔力のみで身体強化をしていた以前と霊力運用を併用する現在では未だに違和感が残っていた。身体のサイズの違いもあり、馴染ませるには時間が必要そうだと感じている。






(お願い事)

★評価、ブックマーク登録、♥応援 などのリアクションをお願いします。

コメントなしで★や♥だけで十分です。モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る