第1章 第6話 戦利品
マツリの確認していた幌馬車には、拘束され意識の無い女性が四人いた。
二人は探索者なのか武装をしている。一人がローブ姿で、もう一人が軽鎧姿だ。武器は携帯していないので、もう一つの荷馬車の中か野盗が所持していたのかもしれない。もう二人はお嬢様と侍女といった装いだ。
捕まる時に抵抗したのか、探索者の二人は顔を酷く腫らしていて、身体には矢傷も負っていた。
一瞬死んでいるのでは?と思ったが、呼吸があるようなので胸を撫で下ろした。
「マツリ、俺が本名だとややこしいのに巻き込まれるかもしれん。ここからは俺のことは【ラムザ・クロガネ】って偽名で呼んでくれ」
「んー?いいけど」
兎も角、手当と救出が先だろう。
「この手錠は魔道具?魔力を乱して練れないようにする感じかな?普通に壊して平気?」
マツリがエイルに確認してくる。
「衛兵とかが使う汎用品じゃないかな。壊して大丈夫」
女性達の手錠の蝶番をスター・シーカー製のナイフで破壊し、足首を縛っている縄もナイフで切断して解放した。これで物理的な自由は確保できた。次に、マツリが【回復魔法】で負傷を治療していく。一通りの治療を済ませたところで、四人の肩を揺すって声を掛けた。
「おねーさん達、起きて~。起きて~?」
軽い呼び掛けで起きてくれず、少し強めに揺すって声を強くして、漸く目を覚まし始めた。
「皆さん、傷は治しました。身体は大丈夫そうですか?」
エイルは一歩下がって待機している。相手が女性な事もあり、マツリに任せた方が相手も安心するだろうという判断だった。尤も、その女性達がエイルを見て女子だと判断しているのだが。
「貴女方は……?もしかして助かったのですか?」
怯えた様子のローブ姿の探索者を背に庇う軽鎧の探索者が、マツリに確認をした。
「はい、助けました。もう大丈夫ですよ」
マツリは四人に優しい笑みを向けると、彼女らは漸く安堵の表情を浮かべた。
「俺はラムザ。こちらがマツリ。転移トラップで飛ばされたんだが、土地勘がなくて困っているところだ。迷宮都市群に戻りたいと思っている」
「先程やっと道を見つけて、人がたくさん居たから道を尋ねようとしたら野盗だったの」
エイルとマツリは自己紹介を兼ねて事情を説明した。二人の言葉を聞き、四人は口々に感謝の言葉を述べていく。
「探索者で前衛のカナリエです。商人の馬車を護衛していたのですが、毒矢の奇襲を受けて動けなくなってしまい、捕まりました。助けていただき、感謝いたします」
橙色の直毛を顎のラインで揃えたボブカットで、成人して間もない年頃の女戦士だ。身に着けた革鎧は使い込まれているが、丁寧に手入れをしていることが窺えた。
「私はカナリエのパーティメンバーで、魔術師のレーヴィアです。助けてくれてありがとうございます」
蜂蜜色の柔らかそうな髪質の女性で、垂れ目がちな童顔だが身体の方はカナリエよりも女性らしさを主張していた。茶色のワンピースに濃紺のローブをまとっている。
探索者二人が自己紹介をして礼を述べたのに続き、お嬢様と侍女の組み合わせの二人組が口を開く。
「サイアリス・フィンレットと申します。こちらは侍女のレフィです。この度は助けていただき、誠にありがとうございました」
白金色の背中まで届く長い髪に翠玉の瞳のお嬢様が、綺麗なカーテシーで自己紹介をして侍女と共に感謝を示した。大人びた雰囲気を感じさせるが、成人前後の年頃だろう。
それぞれ身体に痛みがないことを確認してもらうと、一旦馬車から降りてもらった。
もう一台の荷馬車に武器等の没収された持ち物がないか確認してもらうと、探索者の二人はそれぞれバックパックと自前の武器を回収できた様子だった。亜麻色の髪でシニヨンの侍女の方も、没収されていた鞄を見つけたようで胸を撫でおろしている。
「さて、では皆さん。これからどうしましょうか?」
荷物の回収が落ち着いたところで、エイルが切り出した。
「その前に、一つ確認させて下さい」
カナリエが待ったを掛けた。
「賊はどうなりましたか?」
エイルは頷いて答える。
「俺達の時は二十名規模だった。半数近く倒したところで逃げて行ったよ」
カナリエは眉を顰めて続ける
「私たちを襲撃して来たのは、三十名規模の集団でした。なので、少なくとも二十名以上の賊が残っていると思います」
現場にいなかった人数を考えると、逃げ出した野盗達は拠点に逃げ帰った可能性が高い。そうなると、野盗の逃走時にエイルとマツリが付けておいた【目印】が活きてくる。
「出来れば、殺されたパーティメンバーと商人の仇を討ちたい」
カナリエが意思表示をすると、サイアリスも胸に拳を当てて、真剣な顔で話をする。
「私の方は、フィンレット家の家紋の短剣が見つかりませんでした。それだけは何としてでも取り返さないといけない物なのです」
カナリエとサイアリスには、それぞれに野盗を見逃せない理由があった。エイルとマツリは顔を見合わせる。
「一応、逃げた野盗を魔法で追跡出来るようにしてある。これから拠点を襲うつもりだったんだけど。マツリ、野盗の現在位置はどうなっている?」
現状、魔力を潤沢に扱えるマツリの方が感知範囲が広い。
「うーん、森の中で奥に進んでいるね。ちょっと馬車では厳しそうかな?」
野盗の居場所を聞き、サイアリスの顔が曇る。近場まで馬車で行けるなら襲撃に立会いも出来るが、森の中を馬車から降りての移動となると、魔物との遭遇のリスクが高まる。足を引っ張るだけになりそうだった。
「そうですね。野盗は俺とマツリで殲滅してきます。サイアリスさんの短剣も探してきます。皆さんは、奪った馬車で街へ戻る。それでどうですか?」
四人またはサイアリスとレフィだけをこの場に残す選択肢はないし、かといって連れて行く選択肢もない。街まで一緒に行き野盗を探しに戻ってくるとなると、今度は【目印】の魔法効果も切れて見失ってしまう可能性が高い。このあたりが妥協点と考えられた。
探索者の二人はそれぞれ頷き、街までの護衛を買って出てくれた。サイアリス側もその条件で同意し、移動と合流について取り決める事にした。
幌馬車を一台、貨物なしの方を使用して女性四名は道を南東方面に向かう。移動先は【ナハート】の街。そこの探索者ギルドに話を通して、サイアリスと連絡が付くようにしてくれるらしい。
マツリとエイルは四人を見送ると、貨物を載せたままの幌馬車をマツリの異空間収納に収納する。馬車を曳いていた馬に騎乗すると、森へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます