第1章 第8話 野盗殲滅戦(2)

「(さて、野盗の配置状況はどうかな……?)」


 二階部分に他より強めの生体反応が複数。一番強い反応が頭領と思われる。一階部分の生体反応は室内で忙しそうに動いていることから、撤退準備が進められている線が濃厚。山小屋の裏手側に回った生体反応は、マツリが手際よく片付けている。


「(外に出た野盗が戻らないのにそろそろ気付くよな。突入するか)」


 エイルは山小屋の扉を開けると、正面から押し入った。山小屋の一階は切り出した木材の乾燥保管に使用されていて、裏口は大きく扉が開いていた。裏口側には馬車が三台並び、荷の運び入れが行われている。野盗達は搬出作業に集中している様で、表側の扉からエイルが侵入した事にも気付いていない。


 エイルは木材の陰を移動しつつ、馬車に近付いていく。馬車までの遮蔽物が残り僅かの距離で無くなり、荷台で荷を受け取っていた壮年の野盗がエイルの接近に気付いた。


「あん?誰だお前?」

 荷を受け渡していた若い野盗も、その声掛けで振り向いた。

 エイルは笑顔で手を挙げながら二人に近付いていく。

 あまりに堂々とした近付き方に壮年の野盗は眉を寄せて何事かと考える。若い野盗は手に持った荷を荷台に押し込む動きを見せている。


 エイルは笑顔のまま間合いに入ったところで、神速の抜き打ちを放つ。鋭利すぎる刃は抵抗感なくスッと野盗の首を通過し、荷台に荷物を置こうとしていた若い野盗の首もスッと刎ねた。積荷に返り血を盛大に撒く事になってしまったが、これで五人目。それぞれの死体を紅い指輪に収納する。


「(古株っぽい奴でも警戒心がザルだな。普段から頭数維持で入れ替わりが多いのか?)」

 エイルは並んだ三台の馬車を異空間収納にしまい込む。

「(メインの異空間収納はこれで結構ギリギリっぽいな)」


 辺りの気配を探知する。エイルは山小屋に絞り探知の強度を上げてみると、地下空間に五人の反応が確認できたが、いずれも生体反応の低下がみられる。対して、二階には強めの生体反応が三人ほど確認できている。野盗の頭領とその側近だろう。その他にも五名ほどが二階を動き回っているようだった。


 エイルが片付けたのが五名。二階の八名をこれから殺るとして、計十三名。最低限二十人規模との話であったから、残り七名以上の不確定人数を探る。索敵を山小屋の裏に向けて辿ると、洞窟内に七名の反応があった。その七人はマツリに任せることにし、二階に続く階段を登っていく。


◆◆◆◆


 マツリは裏手の洞穴の方へと足を進めた。洞穴の前にあった馬車は二台。見張りは立っておらず、生命反応は全て洞穴内に感じる。

「(馬車は積荷ごと回収しときますか)」

 マツリは馬車二台を異空間収納にしまうと、洞穴の中に踏み入った。すると、すぐに樽を抱えた男と木箱を抱えた男と遭遇する。


「あっ!さっきのやべぇ嬢ちゃん!」

「んお?まじか、報告のか!」


 二人の男は荷を置いて脱兎のごとく奥に逃げ……ようとして、マツリの【石礫】の術で頭が弾けた。


「うぇ……。改良したら威力えっぐ……」


 マツリはの【石礫】の魔法のアレンジは二点。石礫を回転させるのと、石礫の先端をわざと壊れやすいようにしてある。これにより、貫通力の下がった弾が対象にぶつかると、その衝撃で石礫がバラけて傷口を広く破損させるようになっている。試してみた威力にドン引きしつつ、マツリは奥へと進む。洞穴内の生命反応は残り五つ。すべて片付けると、死体は紅い指輪に死体をすべて収納した。


◆◆◆◆ 


 エイルが階段を登っていると見覚えのある顔の野盗と鉢合わせした。野盗の判断は早く、「敵襲!」と叫んだ。腰に下げた蛮刀を抜いて受けの姿勢で待ち構えたが、階段を駆け上がったエイルの打刀の抜き打ちに右膝から下を切断され、姿勢を崩した。擦れ違い様に首を一閃して刎ねる。


「(叫ばれたものは仕方ない、強襲するか)」


 生体反応の集中している部屋の扉の鎹に切先を刺し込んで金具を破壊し、扉を蹴り破る。蹴り飛ばした扉を楯に部屋へと駆け込み、廊下側を警戒していた野盗達の首を刎ねていく。


「てめぇさっきの耳長族エルフッ!」


 馬車襲撃時に指揮を取っていた男が叫ぶが、次の瞬間には小剣を持った手首を落とされ、前屈みに手首を庇ったところで首が落とされた。扉を蹴り破った一瞬の間に、四人の首を刎ねた。残り三人。


「さて。他は全て首を刎ねたぞ。残りはお前達三人だけだ」

 野盗達はゴクリと咽を鳴らした。

「背後関係とか一切合切しゃべるなら、生かして街まで連行する。しゃべる気がないなら首だけ貰う。選べ」


◆◆◆◆ 


 頭領のジンは呆然としていた。


 轟音と共に扉が飛んできたと思ったら、一瞬で手下四人の首が刎ねられていた。駆け出しから中級程度までの探索者や傭兵なら戦いになるし、自分でも倒してきた。しかしこの飛び込んできたエルフは違う。明らかに上澄みの強者。抵抗したところで首を刎ねられて終いだ。


「……。喋る。投降する。おめぇらも武器捨てろ」

 生き残っている手下にも投降を呼びかけ、獲物を放り出して部屋の隅に蹴りやった。


◆◆◆◆ 


 エイルは捕虜三名を縛り上げて山小屋の一階に降りて来ると、一階には既にマツリが合流していた。地下の虜囚について頭領に確認しつつ、保護に向かう。


 捕まっていたのは、女性三名と子供が二名。かなり弱っていたので、食事を与えて馬車で休ませた。救出され腹も満たされた事で気が緩んだのか、皆毛布に包まって眠ってしまった。


 一段落ついたところで利用できそうな食料品や酒、消耗品、金品などを異空間収納に回収していく。サイアリスに頼まれていた家紋付きの短剣は、頭領の居た部屋で雑な周辺地図と一緒に回収できた。


「そういえば、スター・シーカーから航空写真かそれを基にした詳細地図でも持ってくれば良かったな」

「それは駄目よ。誤魔化しの利かない戦略物資になり過ぎて扱いが難しいし、何より冒険している感が台無しだわ」


「(マツリのこだわり的に拒否ってこと?まぁいいか……)」

 翌朝まで虜囚達をしっかり休ませると、馬車一台で虜囚達五人を運び、別の馬車に捕虜三人を積んで出発した。余った馬はロープでつないで連れて行く。


 その後、二日を掛けて無事に合流予定の街【ナハート】へと辿り着くのだった。





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