第1章 第4話 Go East.

 エイルとマツリは、東へ向かって歩いていた。

 とりあえずの目的地は大陸中央部の迷宮都市群。地上に降りた場所は大陸の西端。二人に土地勘はなく、人里や街道に当たるまではと、東へと進んでいく。


 草原を歩いた。林を抜けた。また草原を歩き、森に入った。


 チョーカー型の虫除けの魔道具や結界魔道具など、持ち出した便利道具の数々により、旅は快適に進んでいた。テント代わりの【コンテナ・ハウス】など、空間拡張されていて外見サイズと中身の広さが圧倒的に違った。外見は4頭曳きの馬車程のサイズなのに、中は高級宿のスイートルームかという代物で、寝室六部屋、リビング、ダイニング、風呂、トイレ、キッチン、馬車と馬が収まるガレージまで完備という、神話級魔道具には開いた口が塞がらなかった。類似品として、【ボックス・トイレ】というトイレ専用の魔道具も凄い。空間拡張、消音、消臭、洗浄、空間安定化などを備え、便器の中に異空間収納があって常に清潔である。しかも重力魔法で浮いているので、多少凹凸がある地面でも問題なく設置が出来た。実質、旅をしながら休憩に高級ホテルを使うような環境が出来上がり、エイルは遠い目になるのであった。



「人間いないねー」

「そうだねー。魔物は来るけどねー」


 地上に降りて早五日。人里に掠りもせず無人の野をただ歩く。二人はすっかりダレてしまい、言葉遣いも雑になっていた。


「お、食用ハーブ発見。ほい収納っと」

「んー?これは食べられる茸?インストールされた知識だけじゃ良くわからないよ……。やめとこ……」


 最初は高かったマツリのテンションもすっかり降下し、道すがら食用や薬用になる植物など有用な物を拾う意欲も低下してきていた。


 幸いなことに、移民船内で時間魔法の掛かった収納スペースで調味料を何種類か入手出来ていたため、敢えて野生の調味料を探す必要性が薄い。それがより一層の意欲低下を招いていた。しかし今は良くとも使えば減るし、いずれ無くなるのだ。


「真っ直ぐ先に魔物の気配。お肉確保~」

 マツリは幼児退行したかのような発言と共に走り去って行った。エイルは「またか……」と溜息を吐きつつ後を追う。


 マツリは走りながら収納から槍を取り出すと、両手で構えた。


 見つけた獲物は巨大な猪。体長二メル近い巨体がマツリの接近に気付き、ゆっくりと振り返る。


 マツリは「ヘイ、シシリー!【風操作】【気配ずらし】」と短く唱えると、音と匂いの流れを少しだけずらした。この巨猪は獲物の探査をほぼ嗅覚、補助に聴覚を使用しており、視覚は意外と弱い。巨猪はずらされた認識のままマツリと擦れ違うように突進し、視覚でズレを認識した時には手遅れだった。マツリは擦れ違い様に巨猪の首筋から心臓へと槍を刺し入れて離脱。巨猪はその一撃で絶命していた。


「うん、綺麗に決まった!」

 満足いく結果に笑みを浮かべたマツリは、巨猪と槍を異空間収納に収めた。採取は苦手だが、狩猟は楽しいらしい。


 狩った獲物は血抜きや冷却などを行うべきところだが、特別製の異空間収納には時間魔法も備わっている。入れた時点で時を止めたままが標準設定のため、新鮮なまま保管出来ていた。故に、マツリの収納には巨猪、巨鹿、巨熊、鳥、巨牛など、食用になりそうな獲物や、エイル曰く探索者ギルドで素材買取して貰えそうな獲物などが、手当たり次第に収められていた。


「マツリは楽しそうだな」

 追いついてきたエイルがマツリに声を掛けた。

「うん、狩猟は良いね」


 マツリは先程までと違い、随分とスッキリした表情になっていた。マツリの笑顔をみて、エイルは「狩っているのは魔物だけだし、まぁ良いか」と思うことにした。


 それからも二人は魔物を狩り、採取をし、東へと進み続ける。小鬼ゴブリンを狩った。豚鬼オークを狩った。犬鬼コボルトを狩った。人型ではあるが、人に仇なす害獣は迷いなく殺せた。


「うん。人型はちょっとくらい躊躇うかなと思ってたけど、全然さっぱり罪悪感ないや」 

 マツリはケロッとしていた。

「躊躇って怪我しても困るし、それは良かった。次は盗賊とかの人間の姿をした害獣が課題ね。躊躇うなよ」

 エイルの次の課題に、マツリは真面目な顔で頷いた。

「うん、多分大丈夫。逃がしたら別の誰かが被害者になる。巡り巡って自分のせいでって後悔はしたくない」

 覚悟なくその時を迎えては、致命傷になりかねない。エイルはマツリの覚悟が出来ていることに、ふっと頬を緩めた。



地上に降りて八日目。


 森の中を横切るように敷かれた轍が見付かった。人里につながる痕跡をやっと見つけたことで、二人は顔を見合わせハイタッチする。向かって左が北西行き、右が南東行きの道となる。土地勘のない二人は取り敢えず右の南東に向かうことにした。


 午前中いっぱい進んだところで、複数の人間の気配が見つかった。霊力や魔力の反応からして、人間と考えられる。


「マツリ、行ってみよう」

「おっけー!」


 二人は向かうことを決めると、身体強化をして走り出した。





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