第1章 第3話 Hello New World.

 マツリが案内したのは、エイルには宝物庫の様に感じられる貨物室だった。そこでマツリはブレスレットや指輪、チョーカーなど様々な装飾品が置かれた一角に進み、エイルもそれについていく。


「さて、最初はこちらの装飾品からですね。空間魔法と時間魔法の魔道具で、【異空間収納】のための物です。性能はどれも殆ど一緒なので、好みの見た目の物を選んで身に着けてください」


 そう説明しつつ、マツリは白いプレートとチェーンに赤い差し色の入った物を選び身に着けた。エイルはマツリと同形状で、黒いプレートとチェーンに金色の差し色の入った物を選んで身に着ける。


「魔力を通すと異空間収納のゲートが開くので、そこから物資の出し入れが出来ます。容量は魔力量に左右されますが、今のエイルさんでも最低限、この貨物室の四分の一くらいの容量は使えるはずです」


「おお……。いきなり神話級の道具か……。いや、神話の存在だったわ此処」


 マツリは軽く首を首肯し、持ち帰りに遠慮は無用な事を伝えた。


「本艦はもうすぐ機能停止しますから、全部持って行きましょう。装備品や食料と、回収した魔物の死骸などを同じ異空間収納に入れるのは抵抗がありませんか?別に一緒に入れた物が汚れる訳ではないのですが、気分的に嫌なので私は幾つか併用します。半分くらいはこっちで持っておきますね」


 そういうと、女性受けしそうなカラーリングやデザインの物を中心に異空間にしまっていく。


「なるほど。確かに魔物や人間の死体を同じ異空間にしまうのは気分的に避けたいな」


 同意すると、エイルも残り半分をブレスレットや指輪などを異空間収納にしまい込んだ。


「次は装備ですね。使いそうな物は好きに持って行ってください。残り物は私が持っていきます。刃物は【洗浄】【血払い】【自動修復】【強度強化】あたりはどれも付いていてお手入れ要らずの上、斬れ味も抜群ですよ」


 マツリは内反りした大型のククリナイフを数本、直刃の長剣、短剣、細剣などを見た目の好みで選んでいく。


「そんなのをお好きにどうぞって……。欲が試されてる?遠慮しないからね?お、刀がある!」


 エイルは刃渡り百二十セル程の大太刀、刃渡り八十セル程の打刀、刃渡り六十セル程の脇差と、次々に手にして刃を鑑賞し、振り応えを確認していく。属性が付与されたような局所的に有効な魔剣の類より、唯只管に斬る事に特化した妖刀の類がエイルの好みだった。


 中でも、夜空のような深い青みを帯びた拵えに金色の差し色の入った打刀、血液のような深い緋色の拵えに金色の差し色の入った脇差、濃緑色の拵えに赤い差し色の入った大太刀が気になった。いずれも刀身は光りの反射の少ない黒色の刃をしており、何れも鞘の差し色と同じ色の樋が入っている。


 エイルは手にした打刀の切先で金属の床を引っ搔いてみると、刃は通っているのに切断面が殆ど見えない様な斬れ方をしていた。


「凄まじい斬れ味だ。これは斬られた事に気付かないんじゃないか?」


 エイルはその斬れ味に気分が高揚するのを自覚していた。


「その黒い刀身の刀は単分子ブレードなんですよ。実体があれば斬れない物は無いんじゃないかなっていう魔導科学の逸品ですね。刀、お好きなんですか?」


「故郷の刀剣なんだ。愛着があってね」


「そうでしたか。私にも打刀と脇差ください。その白い拵えの打刀と、桜色の拵えの脇差が可愛いので欲しいです。使い方とか教えてくださいね?」


「了解」


 残りについても遠慮はしなくて良いとの事で、結局は根こそぎ回収していった。


 次に、大身槍の全長五メルもある長槍と全長二メル程の短槍、薙刀、直剣のバスタードソード、細剣、マンゴーシュ、金属製の柄の長さが身長程もある大斧、金属製の長柄の戦鎚、戦棍、小楯や大楯など、種類を問わず気に入った物はどんどん収納していく。異空間収納で嵩張らず持ち運び出来るとなると、普段は絶対やれない暴挙がまかり通っていた。


「この両手剣?鉄板みたいなやつって飾りなの?」

「あ、それは気を付けてください。ものすごく重いやつですよ。魔力を通すと更に重くなるんです」

「重い。ほほう……」


 刀身だけで百六十セル程、身幅が三十セル程、厚みも中央付近で三セル程はあるような、まさに金属の塊という様相の大剣だった。取り回しも持ち運びも難しそうな大物を、エイルは両手で柄を持ち台座から持ち上げてみる。本当に重かった。重そうな見た目以上に重く、身体強化をしてやっと持ち上がるような代物だった。


「これは……凄いな。ひたすら重く頑丈にした遊びの逸品?ろくに振れそうにないが、異空間収納と併せれば使えるかな?持って行こう」


 弓や投げナイフなども含めて気になる物は一通り収納したところで、防具の検討に移った。


「地上に下りてから不自然じゃない見た目が良いですよね。エイルさん、アドバイスお願いします」

 マツリは地上の標準的な身なりについて疎い。まずは現地人のエイルに意見を求めた。

「俺と同じで、探索者風で良いんだよね?」

「はい、魔法も使えますが、近接戦闘が出来そうな感じが良いです。それと、ガチャガチャ鳴るのは嫌なので、静かに動けると嬉しいです」


 探索者界隈にはゴロツキのようなマナーの悪い者も多い。エイルやマツリの様な年若く見目の良い者は絡まれやすいものだ。近接戦闘が苦手そうな恰好だと余計に舐められるので、外見に抑止力的な効果も必要だった。


 マツリは地上の文明レベル的に不自然でない普段着と防具をエイルと相談しつつ選んでいく。紺色のシャツに黒いスカート、黒いショートパンツ、焦げ茶色の編み上げブーツをベースに、白色をベースに黒い蔦植物をモチーフにした差し色が入った革鎧を身に着けた。その上から濃緑色のフード付きの外套を羽織っている。基本の一揃いが決まると、似たような装備を選んでいく。


 基本装備は探索者らしい軽装であれば良いが、念のため、全身甲冑も選ばせておいた。


 エイルもマツリと似たような選び方で、白シャツに黒いズボン、黒いブーツ、黒色をべースに金色の桜花をモチーフにした差し色が入った革鎧に、ベージュ色の外套を羽織っている。こちらも一揃い決めた後は、気分で着替える装備を幾つかと全身甲冑も確保した。


「探索者にしては素材感が上等過ぎるが、浮く程キテレツな恰好ではないと思う」


 エイルがお互いの恰好を眺めつつ満足そうに微笑んだ。


「上等ですもの。【洗浄】と【自動修復】、【サイズ調整】、【環境適応】なんかはデフォですし、魔法金属の繊維が練り込まれてもいて、他にも色々付与されてますから見た目よりずっと頑丈ですよ」


 お互いに一通りの装備を選び終わったところで、マツリが残り物を根こそぎ収納にしまい込む。


「保存食の残量とマザーの活動限界が間近なので、あと三週間程で地上に降りましょう。それまでしっかり身体と魂魄を回復し、新しい装備や技能も馴染ませるようにしましょう」


 エイルはマツリに頷き、訓練室へと連れ立って戻って行った。 


「マツリも定着訓練が必要だろう?手伝わせてもらうよ」


 魂魄も魔力も万全のマツリが本気を出すとエイルが爆散してしまいそうだったので、あくまでエイルの出力に併せて技術的な指導が行われるのであった。


 刀剣の使い方などの使い方はインストールされた知識で把握はしているが、やはり知識と実践の違いが感じられのが良いのだろう。


◆◆◆◆


 それから三週間、瞑想睡眠を駆使して訓練に励んだ。エイルもある程度は今の身体の動きに慣れてきた。地上で流通している異空間収納の代表格である【魔法の鞄】と、スター・シーカーで入手した異空間収納のブレスレットでは物を取り出す時の反応速度や効果範囲が優れており、戦いながらの武器を次々と切り替えるという新たな戦闘スタイルも確立しつつあった。


「さて、マツリさんや。そろそろ行きますか」


「エイル様、地上に降りましたら、私のスター・シーカーのスタッフとしてのナビゲーションは終了です」


 エイルはマツリをみやる。


「なので、地上に着いたら敬語なしのパートナーでどうでしょう?」


「承知した」


 エイルはからりと笑った。


 行先は、エイルが居たトランゼア大陸の西端、地上に現存する数少ない魔導エレベーターの遺跡へ。


「マザー。私を産んでくれてありがとう。行ってきます!」


————『また送り出すことが出来るとは思っていませんでした。いってらっしゃい、マツリ。私の最後の娘』


 その日、マツリとエイルを地上へ転送した移民船スター・シーカーは、機能を停止した。


◆◆◆◆


 魔導エレベーターの出口は、遠くに海が見える丘の上のストーンヘンジだった。マツリは胸いっぱいに地上の空気を吸い込み、周囲を見渡す。


「海がみえる……。どこまでも土の地面が続いてる……。あ、日の出!!間に合った!!」


 地上に降りたら最初に夜明けを見てみたかった。そのために準備を急いだ。その甲斐があって見れたことに、生後二ヵ月児は兎に角興奮していた。


「はじめまして地上!!よろしく、エイル!!」


 エイルはマツリに微笑むと、歓迎の意を表した。


「地上へようこそ、マツリ。これからもよろしく頼む」






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