第44話

 ボボンから供給される魔力を利用して魔術の準備が整っていくヴィヴィの体が青く発光していく。

 両手から発現させている魔法陣に組み込まれた魔術文字を素早く、複雑に組み込んでいくその様子にリリーたちは思わず息を飲んで見入ってしまっていた。


魔術アレが来るぞ! アイツをもっと攻撃しろって!」

「ダメだ! あのバリアのせいで全然効いてねぇ!」

「防衛隊! 早く前に出ろ!」


 切り立った崖が左右に伸びているこの道において魔術による波状攻撃に帝国兵たちは焦りを見せ、混乱する隊の中で指揮官が大きな声で指示を出していく。

 体を覆いつくすような大きな盾を装備した兵を前衛に向かわせると、横一列に並ばせ盾を地面に突き立てて身構えた。


(あの盾の感じ……多分あれも耐魔性があるモノよね。ああいうのが出てきたら足元の地面とか抉ったほうが手っ取り早いけど、下手にそういうことをしたら逆に進みずらくなるね……)

「そういうのが来たら! 尖弾岩ストーンエッジ!!」


 ヴィヴィは両手から魔法陣を再構築を行い、その色は地属性を表す茶色で染められていく。

 彼女はそのまま発動した魔術をボボンの体を通して足元に伝わせると、目の前の地面がえぐり取られていき、いくつも生み出されたそれらは鋭く尖った岩のような塊になって宙に浮いていた。


「吹っ飛べっ!!」


 手を思い切り振り、その先にいる帝国兵たちに尖弾岩ストーンエッジが一斉に降りかかっていく。

 先ほどと違う魔術に防衛隊は警戒し、盾を握る手は強く持ち腰を深く下ろして脚に力を込めた。


「ぐうぅっ!」


 盾に着弾した岩の弾丸は大人の腕ほどの大きさであったが想定以上の衝撃が盾越しに体に響いていく。

 一度だけならしっかりと盾を構えていた帝国兵たちも耐えていたのだろう。

 だが盾の隙間から見えた光景は追加で降り注いでくる尖弾岩ストーンエッジの嵐であった。


「ぐ、ううっ……!!」

「ぐあっ!」


 無数に降り注いでくる岩の弾丸はやがて帝国兵の一人が体勢を崩し、防衛線に亀裂が入るのをヴィヴィは見逃さなかった。

 隙間が出来ればそこを突くと陣形はガタガタになっていく。

 その隙を逃すまいとヴィヴィは間髪を入れずに隙間の空いたそこに向かってさらに追撃を入れていった。


「まずい!! 早く体勢を立て直せ!」

「もう遅いわよ!」

 

 一度崩れた防衛線を立て直すのは非常に困難だ。

 だがそれでも、この降り注ぐ岩の弾丸から味方を守らねばこの状況を打開することはできない。

 帝国兵たちは必死になって立ち上がり、空いた隙間を縫うように編成していく。

 何もかも必死な状況で帝国兵の注意がほんの少しだけヴィヴィから遠ざかった瞬間、何人かの帝国兵がに気が付くと上を見上げる。

 そこには大人一人分の大きさがある尖弾岩ストーンエッジが自分たちの上を通過していく光景であった。


「弾けろっ!!」


 ヴィヴィの手がグッと握りしめられ、その合図と共に上に放たれた尖弾岩ストーンエッジが内側から破裂するように爆発し、その破片が勢いよく帝国兵たちに襲い掛かっていった。


「ぐあああっっ!?」


 最初の魔術よりも速度が遅く、通常ならば目視してから後方にいる魔導ガンを持った兵たちがこの程度の魔術なら撃ち落とすのは容易であったはずだった。

 だが前衛にいる盾を持った部隊は崩れ、混乱している状況の最中に起こったこの攻撃はたった一撃だけで後衛にいた兵たちも崩れていく。

 目の前で見える帝国兵の陣形は崩壊の連鎖していくのを見て、ヴィヴィは本命の攻撃が成功したことに手ごたえを感じていた。


「す、すげぇ……。あんな単純そうな魔術だけでこんなに圧倒するなんて……。マジで天才なんだな……」

「そんなにも、ですか?」

「ああ……。アレは周囲の地面や石を固めて投石するっていうシンプルな地属性の魔術だけど、その硬さは発動するときの魔力に比例してその硬さが変わる。ヤツらの構えていたあの盾も受け止めた魔術をある程度は分散させるほど耐魔性が高いはずだ。だけどそれを上回るほどの魔力で圧縮して、しかも最後の奴が本命の魔術だろ? 似たような形で破裂するタイプも織り交ぜるのを僅かな時間で構築してるのはさすがにヤバい……」

「ごくり……」


 目の前で繰り広げられている光景はもはやヴィヴィの独壇場になっており、しんがりを務めていた帝国兵たちはすでに瓦解しているようだった。


「今よ! ボボンに続きなさい!!」


 この戦場の主導権を完全に握ったと確信したヴィヴィは腕を上げて進軍するように叫ぶ。その瞬間、空から異様な気配を皆が感じた。


「――……!?」


 ふと灰色の空から白い光が強く遠い場所の地上に降り注ぐ。

 その光景に皆が思わず足を止め、その光の正体に注目するように空の方に目を向けていった。


「……え?」

「……!」


 空を見上げたリリーとラティム。

 白い光の中にいたのは、胴体に赤黒い風穴が広がったグローリーの姿が目に映ったのだった。

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