第37話
帝国側の陣形を崩され戦場の状況が傾いてきたのを悟った部隊長はここで大声をあげる。
「相手は崩れている!! ここが正念場だ!!」
部隊長の声はその場にいる前衛部隊に聞こえるほどであり、それを皮切りに一気に接近を開始する。
ばらけてしまった帝国兵はそれを見て二人一組に固まり、魔導ガンで牽制したが勢いを増したウエスメイムの兵の圧は凄まじく生半可な攻撃で止められるほど甘くはなかった。
「このままいけばこちらの勝利だな」
戦場の状況を遠くから見ていたマホは眼鏡をかけ直し、心の中で安堵する。
その言葉を聞いたリリーたちも少しだけホッとしたような気持ちになった時、戦場を眺めていたマホは何か一点を注視したのをリリーは気が付いた。
マホが注視した先をリリーも目で追うと、その先に巨体の兵士が後方から真っすぐ突っ込んでくるのが見えた。
「うおおおっ!!!」
戦場の中を野太い雄たけびと共に参じたその者に、一瞬誰もがその声の主に目を向ける。
魔導アーマーの背の部分から魔力の青い粒子を吐き出しながら戦場の真ん中へと辿り着き、両足を地面に着地させると重い音が鳴り響いた。
「ドントリオン・マキス! ここに見参である!!」
戦場のど真ん中で高らかに名乗ったマキスの声はその周囲が思わず注目してしまうほどの存在だった。
わかりやすいのがそのデカさに皆、驚いた。
二メートルに近い身長は並みのキジン族よりも背が高く、さらにその巨体を覆っている魔導アーマーによってゴツい体付きがより一層増している。
さらにマキスの魔導アーマーは見るからに彼専用に作られた特注品であり特に肩を守るショルダーガードが分厚いのが一目でわかる。
装甲も部分的に細かく分割されており、その合間からは青い光が薄く発光していた。
「むむむ……急いで援軍に来たが吾輩の部下たちを置いてきてしまったな……。全く、鍛え方が足りんからこういうときに吾輩についてこれんのだっ!」
「あの馬鹿みたいな巨体は……。なるほどドントリオン・マキスか」
「アイツって有名なんですか?」
「前の戦争では突撃バカを務めていた隊長でね。噂ではマルティナスを倒したとか」
「えっ!?」
「まぁ所詮は噂だ。それを見た者はいないからな。武勲を挙げたい奴が垂れ流した嘘かもしれん。……しかし、突撃を任されている者が激戦区の中央に向かわなかったのは想定外だな……」
こちら側には戦力を割かないだろうというの読みが裏目に出たことにマホの顔は苦虫を噛んだように歪んでいった。
「……こちらは到着が遅れた分、だいぶやられたようでありますな。ならばっ! その分の働きをするまで!」
マキスの得物はその巨体に見合った大斧であり、その柄を両手で強く握りしめる。
その時、先ほどの間の抜けたマキスの雰囲気が一瞬でヒリついたが周囲にいた者たちが感じ取った。
「さぁ……。吾輩を、止めてみろォ!!」
マキスは魔導アーマーを稼働させると背の部分から青い粒子を放出しながら突っ込んでいく。
その巨体は地上を滑るような動きで部隊長たちの方に向かっていくと、その凄まじい殺気に部隊長は思わず声を上げた。
「――ッ!! 退避ッ!!!」
部隊長の号令に反応した者はすぐに突っ込んでくるマキスに回避行動をするが、僅かに遅れた者がその餌食となっていく。
「――っ!?」
膨大な質量の塊は正面にいた者を吹き飛ばし、中にはすり潰されているのもいる。
さらにマキスの突進に対して生半可な回避をする者たちは握られた大斧を振るわれ刈り取られていく。
足を地面にめり込ませるほど踏み込み、速度を落として突進の進行方向をコントロールする瞬間をウエスメイムの兵が狙い撃ちするかのように囲んだ。
「今だ! たたみこめ!!」
「ぬぅ……ならばっ!」
それを見たマキスは魔導アーマーの出力を上げると装甲部分が青く光り始める。
やがてその光は手に辿り着くと、握ったに大斧に伝わるとその刃が青く発光し始めた。
「ぬぅらばぁ!!」
マキスは大斧の柄を両手で強く握りしめると、それを自身を中心に円状に地面を斬り裂いた。
「――ッ!!?」
斬り裂かれた地面は抉られた土と共に青い粒子が吹き飛ばされていく。
その勢いは凄まじく、囲んだ兵士たちは思わず体を止めてしまうほどであった。
「ぬおおおッ!! 大! 回! 転 !」
僅かに動きを鈍らせた兵士をマキスは逃さない。
マキスはその巨体をグルンと大斧と共に回転させると青い刃の波状が兵士たちを襲った。
「ぐわあぁぁっ!!」
ウエスメイムの兵士たちはその攻撃をモロに食らって吹き飛ばされる。
その攻撃は騎乗していたリザードバックをも首から切り裂き、自慢の鎧も貫通していた。
「ぐわっはっは! この威力! 魔導アーマーは素晴らしい代物でありますな!! そうら、吾輩を止めたければマルティナスを呼んでくるしかないぞ!」
「なんだあの出鱈目な攻撃は!! 負傷者を庇え!! 動けるものは援護しろ!!」
マキスのこの一撃は明らかに状況を変え、怖気ついていた帝国兵たちも士気を取り戻していくのを見ると、部隊長はすぐに撤退の指示を出す。
「この好機を逃すわけにいかん! ウエスの兵よ! 覚悟……ぬぉっ!?」
マキスが追撃の姿勢を向けた瞬間、空からいくつもの魔力の矢が降り注ぐ。
「やらせない!!」
空にいたアイリスが対空砲の爆発の中をすり抜けるように地上のマキスへと近づくと、射程内に入った瞬間にベリルは魔力の矢を集中させつつ通り過ぎた。
「よし! 動きは封じれている! アイリス、皆を援護するためにもう一度だ!」
「グァッ!!」
「ぬっ……あれは竜騎兵か! なるほど相手もこういうことを危惧していたでありますな。――だがっ!」
ベリルたちは空へと高く飛翔し、マキスに向かってもう一度空から強襲を試みる。
それを見たマキスは魔導アーマーを稼働させると両肩のショルダーガードが展開された。
「ぬんっ! 耐魔バリア展開!!」
その状態で出力を上げると、両肩から青い膜が広がっていきマキスの周囲を包み込んでいく。
やがて青色のバリアと化したそれにベリルが放った魔力の矢が打ち消されていった。
「なんだと!?」
その光景は魔力が含まれた攻撃が全く通用してないような状態を見てベリルは驚きを隠せず、思わず声を漏らす。
「ぬわっはっは! これがあれば魔術の攻撃、遅るに足らず! さぁ吾輩を盾にして皆の者、このまま続けェ!」
「……っち。このままじゃ不味いな。まさかあんなのを帝国が造っていたとは」
「おいどうすんだよこれ! かなりヤバいんじゃないか!?」
マキスを中心にバリアを広く展開しながらゆっくりと進軍していく帝国軍は徐々に勢いを増していくのを見て、動揺したピークコッドがマホに尋ねた。
「早くあの魔術を撃たないと、このままじゃ全滅じゃ……」
「愚か者。相手がゆっくりと進軍しているのはこちらの大規模魔術を警戒しているからだ。もしここで焦ってそれを使って万が一にも防がれたら抑止力として機能しなくなる。そうなればあの筋肉バカはすぐにでも突っ込んでくるだろう。だからあのバリアを展開されている以上、下手に魔術を使えん」
「じゃあどうすれば……」
「……ふむ」
マホは戦場を見つめながら空いた手で顎を摩り、思考する。
暫しの沈黙の後、何かに気が付くとゆっくりと口を開いた。
「状況を見る限り、恐らくはアイツしか強力な戦力を投入してないように見える。つまりは奴は切り札なのだろう。ならばこちらも切り札を使えばいい」
マホはそういうとゆっくりと視線を変える。
その先にはラティムの姿があり、彼の顔を見てニヤリと笑った。
「出たくてしょうがないという顔だな。喜べ。ついにお前の出番だ。出撃の準備をしろ」
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